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松浦 章彦さん

税理士

税制改正大綱、税の専門家の評価

2014年1月7日

重要事項の決定も先送り。新機軸に欠け、足踏み感が漂う

税制改正大綱、税の専門家の評価は?自民・公明両党が決定した平成26年度税制改正大綱ですが、一見すると「新機軸に欠ける、足踏み感の漂う指針」といった印象を受けます。「まず企業が潤うことで経済を活性化し、この果実を雇用拡大や賃金引上げを通じて個人所得に還元させる」というのが安倍政権の基本戦略。おおむね、この方針に沿った改正が行われていますが、内容的には従来同様、設備投資促進税制や所得拡大促進税制などが中心になっているため、どうしても二番煎じの印象を拭い切れません。

いくつかの重要事項の決定も先送りされています。グローバル経済下での競争力強化のための法人実効税率引き下げですが、課税ベースの見直しや代替財源の確保に、なお検討を要するとの理由で、具体化が見送られました。マスコミの一部にはこれを批判して、声高に早期実施を主張するところもありますが、そう単純な問題ではないように思います。

もうひとつの争点は、消費税率引き上げにともなう低所得者対策と景気低迷への懸念です。 税制抜本改革法には、「低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含めさまざまな角度から総合的に検討する」と明記されています。自民党は軽減税率導入に消極的ですが、公明党への配慮から「必要財源を確保し、国民の理解を得たうえで税率10%時に導入する」といった曖昧な表現で、実施時期の決定を事実上先送りしました。

企業は減税、家計は増税との批判は妥当か?

新鮮味に欠ける法人税制改革ですが、実は金額的に大変な減税になっています。財務省の試算によれば、まず復興特別法人税の1年前倒し廃止にともなう平成26年度特別会計の減収見込みが6453億円あります。次に、今回の税制改正で、生産性向上設備投資促進税制の創設による減収が3520億円、所得拡大促進税制拡充による減収が1350億円、その他を合わせると総額5410億円の法人減税措置がとられました。法人税収入は通年8兆円強ですから、減税規模の大きさが分かります(※地方法人税の創設が予定されていますので、地方法人2税の影響は考慮していません)。

国税・地方税を合わせ、法人税収の全体に占める割合は20.4%ですから、この他に実効税率の引下げを進めるには、租税特別措置法その他優遇税制の見直しや、代替財源の確保が不可欠です。これらについての明確な算段がない限り、具体化の先送りは当然と言えるのかもしれません。

個人課税ですが、主な改正は給与所得控除の縮小のみでした。それも給与収入が1200万円を超えるサラリーマンについて、段階的に上限を設けるとの内容なので、影響は限定されています。改正により家計は増税との批判は、やや的外れのようにも感じます。蛇足ですが、今回の税制改正には大企業の交際費課税についての緩和措置が盛り込まれました。企業優先の税制改正との批判がある中で、こうした内容を持ち出す意図が「よくわからない」といった声が出てくるかもしれません。

消費増税後の景気減速が懸念され、10%への引き上げは不透明

消費増税にともなう個人向け対策として、低所得者2400万人に1万円を支給し、年収500万円以下の住宅購入者には10~30万円を給付するとの試案があります。ただ、恒久的措置としては不向きなので、やはり生活必需品に対する軽減税率の導入が現実的かつ有効な対策のように思います。これに対し、慎重論者は、減収財源確保の必要性や事務負担増大への懸念を反対理由に挙げています。日本税理士会連合会は、複数税率の存在は事務煩瑣を招くので反対との立場ですが、一方で「公明党の事務方式は可能だが、当面は単一税率を維持すべき」との微妙な言い回しもしています。

問題の本質は、技術論ではなく、消費税率が予定通り、平成27年10月に10%に引き上げられるかどうかの「見極めができない」ということではないでしょうか。消費税増税法附則第18条(景気条項)では、平成23年度から平成27年までの平均実質経済成長率が2%に充たない場合、施行の停止を含め所要の措置を講じることを義務づけています。

政府・日銀は、消費増税後の景気落込みを本気で心配しているようです。黒田総裁は先の金融政策決定会合後の記者会見で、「来年4~6月の成長率はかなり低くなる可能性がある」と述べ、景気減速への警戒感を示しました。先に出された来年度政府予算案は、総額95兆8千億円と過去最大規模になっています。財政再建を示しながらの大盤振る舞いと批判されても、公共事業など企業向け景気対策を厚くしたのは、政府・与党が増税後の景気対策にそれだけ神経を使っている証と言えるでしょう。

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