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池上 司さん

精神科医

芸能人は「パニック障害」になりやすい?

2014年3月19日

ある日、突然に始まる強い恐怖感、動悸、発汗、めまい

芸能人がかかりやすい「パニック障害」パニック障害は、うつに次いで精神科でよく見られる疾患です。この病気にかかっていたことをカミングアウトして、克服した芸能人が何人もいます。この病気は、ある日、突然に始まることが特徴です。強い恐怖感(不安感)とともに動悸、発汗、めまい、息苦しさ、吐き気、手足のしびれ感などが発作的に出現して発症します。きっかけは、何かでせっぱつまっているときで、過労、睡眠不足も伴っています。この「パニック発作」は時と場所を選ばず強烈なもので「このまま死んでしまうのではないか」と当人が感じることも少なくありません。

このように激しい症状ですが、早期に治療を始めれば治りやすい病気です。しかし、放置すると発作を繰り返します。患者は「また発作が起こるのではないか」という「予期不安」に苦しみ、発作の起こりやすい「人ごみ、電車・エレベーターなどの閉所、高い所」などを避けるようになり、外出恐怖やうつを併発することもあります。また、発作の前兆として軽い気持ちの悪さがよぎるようになります。

有名になると大きなプレッシャーに襲われ、毎日が「緊急状態」に

動物(人間)が外敵に襲われるなど、緊急事態に遭遇したときの反応を思い浮かべてください。恐怖感に鳥肌が立ち、動悸とともに呼吸が激しくなり、「戦うか、逃げるか」の瞬時の選択に迫られるでしょう。この際、脳の深部から信号が出て、恐怖感を感じるとともに、副腎皮質からはアドレナリン(ホルモンの一種)が急激に放出され、全身の交感神経系が賦活(ふかつ)されて、生存をかけた全力疾走か必死の闘争を始めるのです。この生理的・心理的な反応は「緊急反応」と呼ばれますが、パニック発作とは、明らかな原因がないのに、わけのわからない緊急反応が突然に起こってくる状態とも考えることができます。

芸能人が有名になってくると、世間からの期待が高く「売れ続けなければならない」という大きなプレッシャーに襲われるでしょう。スケジュールも過密で、いったんスランプに陥れば日々がいわば危機の連続で「緊急状態」になってしまいます。持ち前の才能で、緊急反応的に危機も乗り切ってしまうのでしょうが、どこかで疲れてしまうこともあるでしょう。

このようなストレス状況が、正常な不安反応のバランスを崩し、パニック障害を起こりやすくしているのではないかと思います。パニック障害の原因は、こうした環境因のほかに、遺伝的要素や生育史上の傷つきなど、さまざまなものが複合して起こります。また、上に述べた脳の緊急反応をつかさどる部位の機能的異常も確認されています。

重症例には心理療法の併用が必要。平均治療期間は約2年

治療には、行き過ぎた生活の偏りを改善しつつ、SSRIなどの薬を使いますが、重症例には心理療法の併用が必要です。症状は大体3か月ほどでおさまりますが、すっかり改善して薬がいらなくなるまでの平均治療期間は約2年といわれています。

心理療法には、「認知行動療法」と、フロイトやユングの「精神分析療法」などがあり、どの治療法にも共通しているのは、患者が不安と向き合い、立ち向かえるように援助するという点です。私の立場(ユング派)から言うと、パニックの深層にある不安の源泉とは、患者が現在の生き方で後回しにしてきた大切なものであり、患者自身が自分の生き方はまだバランスを欠いている点に気づくようになると、それを補うように努力を始めるのです。こうなると、もう薬に頼らなくても自分で不安をコントロールできるようになります。

こうした人生の課題に自ら気づいていければ良いのですが、成功してしまうと人間は偏ったバランスでもやれてしまうものです。その時、心の深層が緊急反応を起こし、置き去りにされていた「大切なものを取り戻せ」と叫び出すように臨床家には思えるのです。

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