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大東 恵子さん

社会保険労務士

残業代ゼロ案が招く不幸な事態

2014年5月1日

労働時間ではなく成果を重視する「日本型新裁量労働制」

残業代ゼロ案が招く不幸なシナリオ昨年12月の政府の産業競争力会議において法律で決められた「労働時間の規制」を適用しない「日本型新裁量労働制」の導入について提案がなされ、安倍政権の成長戦略に盛り込む方向で議論が進められています。これは、一部で「残業代ゼロ案」として、かつて提案された「ホワイトカラーエグゼンプション制度」と混同され、サラリーマンに全く残業代が支払われなくなるかのごとく報道がされていますが、それとは少し異なります。

今、提案されている「日本型新裁量労働制」とは、労使合意の下で労働時間と賃金を完全に切り離した雇用契約を結ぶオプションを個人と企業に与える制度であり、労働時間ではなく、成果を重視した働き方を認めるものです。確かに、これまで日本では、長時間働くことが評価の対象となっている部分があり、労働生産性が低く、OECDの調査でも、34カ国中、第18位です。

そのため、働く時間の長さではなく、成果に焦点を当てることで、効率よく働き、生産力を下げることなく、労働時間を減らすことで、労働者、企業ともに成長していくことを目的とすることは、今後の目指す方向としては間違ってはいないと思われます。

成果を評価する前提がないと、労働現場が疲弊し企業力の低下へ

では、今回、提案されている「日本型新裁量労働制」の導入が、現在の日本の労働環境に合致しているのでしょうか?おそらく、多くの人がこの提言に関して不安を感じていると思います。これは、成果を明確に評価されることで、時間を裁量できる環境が日本にはまだまだ根付いていないからではないでしょう。

バブル崩壊後より、成果主義の導入が叫ばれ、多くの企業が導入を進めましたが、コスト削減に利用された場合が多く、成功した事例はあまり見られません。また、現在、日本の労働組合の機能が弱まってきており、その組織率も低下しています。今回、導入が検討されている制度では、労働組合の同意など労使の合意が要件とされていますが、日本の大多数の企業では、企業側が導入を進めた場合、労働者側は合意せざるを得ない状況となると容易に推測されます。

成果を評価する前提がないまま「日本型新裁量労働制」が導入された場合、なし崩し的に残業代ゼロで勤務する勤務形態が日本全体に広まり、労働現場が疲弊することで、一時的なコストの削減となっても、長期的には企業力の低下を招く事態となってしまいます。

もちろん、生活残業やダラダラ残業など企業として削減しなければならない類の残業はあります。また、仕事の効率の問題から生じている残業もあるでしょう。これらについては、一括に新制度を導入することで削減するという安易な方法ではなく、個別の中身を紐解いて削減に取り組むのが企業の健全な発展につながると思われます。

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