JIJICO

長谷川 武治さん

弁護士

W杯便乗商法へ警告 最悪、事業停止も

2014年6月13日

ワールドカップ商戦に商標権侵害の危険性

W杯便乗商法へ警告 最悪、事業停止もFIFAワールドカップが開幕しました。それに伴い、ワールドカップ商戦も最高潮に達することと思います。しかし、FIFA(国際サッカー連盟)は、日本国特許庁に対して、「WORLD CUP 2014」などの標章を商標登録していますので、FIFAから許諾を受けた公式スポンサー以外の事業者が、「WORLD CUP 2014」などと同一または類似の標章を、指定商品または指定役務と同一または類似の商品・役務に使用等してビジネスを展開すると、商標権侵害に問われる可能性があります。

ちなみに、FIFAがどのような商標登録をしているかは、特許電子図書館で、ある程度検索できます。

商標権侵害をしてしまうと、かなり大きな損失を被る

商標権を侵害すると、商標権者や専用使用権者といった権利者から差止請求のほか、侵害行為を組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除却などの請求(廃棄等請求)がなされることがあります(商標法36条1項2項)。裁判所でこのような請求が認容されると、以後の商売が一切できなくなるばかりか、これまで投資した資本が無駄になってしまいます。しかも、これは、客観的に、商標権侵害の事実があればよく、侵害者の故意過失が要求されませんので、「商標登録されているとは知らなかった」などの弁解は通用しません。

また、権利者から損害賠償が請求されることが考えられます。根拠法条は民法709条ですが、損害額の推定、過失の推定が商標法に規定されており、権利者に有利に民法の原則を修正しています。民法709条では、権利者が損害を立証する必要があり、商標権侵害がなければ得られたであろう利益(簡単にいえば、侵害行為によって売れなくなった商品の個数×権利者が販売できた商品の1個あたりの利益)が主要な損害であると解されますが、これはなかなか立証が困難です。

そこで、商標法38条は、単純化していうと、①侵害者が譲渡した商品の個数×権利者が販売できた商品の1個あたりの利益(1項。ただし、権利者の使用能力、販売能力による制限あり)、②侵害者が得た利益(2項。例えば、侵害者が譲渡した商品の個数×侵害者が販売した商品の1個あたりの利益)、③使用料相当額(3項)をもって、損害の額を推定するとしています。権利者は、通常、事案に応じて、一つまたは複数に依拠して、損害額を主張します。推定規定に基づく損害額の主張が過大だと考えるなら、それは侵害者の方で反証すべしとするのが商標法の規定です。

過失についても、民法709条では、権利者が主張立証しなければなりませんが、商標法では過失が推定されますので(商標法39条、特許法103条)、侵害者の方で過失がなかったことを立証することになります。商標登録が既になされているのに、「それを知らずに商売を始めてしまった」というだけでは、過失の推定は覆りません。侵害者が無過失の立証に成功するのは非常に困難であると思われます。

ほかには信用回復措置の請求も併せてなされることがあります(商標法39条、特許法106条)。以上は、民事上の責任ですが、刑事上の責任が問われることもあります。商標権侵害罪(商標法78条)は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金です。これは窃盗罪より重い刑です。このように商標権侵害をしてしまうと、侵害者は、かなり大きな損失を被ることになりかねません。

不正競争防止法違反の可能性も。W杯商戦の法的リスクに注意

不正競争防止法2条1項または2項に該当する可能性にも留意する必要があります。1項は混同惹起行為を、2項は著名表示冒用行為を、それぞれ不正競争として定義しています。1項と2項では要件に相違がありますが、1項または2項に該当した場合、差止・廃棄等請求(不正競争防止法3条1項2項)、損害賠償(同4条)、信用回復措置(同14条)の各請求権が被侵害者に生じ、損害額の推定(同5条)がなされる点は、商標権侵害の場合とほぼ同じです。もっとも、過失の推定はされませんので、被侵害者が故意過失を主張立証しなければならない点は、商標権侵害の場合とは異なります。

以上のような民事上の責任のほか、主観的要件が加重されるものの、5年以下の懲役または500万円以下の罰金という刑事上の責任が生じることもあります(同21条2項1号2号)。不正競争行為を行うと、侵害者が多大な損失を被ることは、商標権侵害の場合とほとんど変わらないでしょう。

FIFAの許諾を得ずに、ワールドカップ商戦に参入する場合、上述した法的リスクに十分留意しないと、権利者から各種の請求を受け、利益を上げるどころか、かえって損失を出し、最悪の場合、事業の停止等に至ることも考えられます。そうならないためにも、事前の調査を十分行い、参入の可否や方法を慎重に検討・判断する必要があるのではないでしょうか。

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