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舛田 雅彦さん

弁護士

ヘイトスピーチ法的規制の懸念点

2014年8月18日

安倍総理がヘイトスピーチの法的規制を検討する姿勢を示した

ヘイトスピーチ法的規制の懸念点ヘイトスピーチとは、特定の属性を持った個人や集団に対して、差別や排除の意図をもって、街宣活動やデモ行進などを行うことなどをいいます。ヘイト(=憎悪)という言葉からもわかるように、そのベースにあるのは悪感情であり、特定の属性を持った人は無条件に排斥するといった論調になりかねないところに怖さがあります。

我が国でヘイトスピーチが問題になっているのは、在日の韓国人や朝鮮人に対して差別的な街宣活動を行う「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を中心とした活動が、日韓関係を損ねるだけでなく、実際に我が国に居住する在日の人たちに対する権利侵害ともなりかねない事態が生じているからです。

実際に、昨年10月の京都地裁判決では、在特会の街宣活動に対して京都朝鮮学校が損害賠償請求等の請求をした事件で、学校周辺などでの街宣活動の禁止と、計約1226万円の賠償を命じる判決が出されました。

このように、裁判所で違法と評価されることもあるヘイトスピーチですが、安倍総理が、「日本の誇りを傷つける。国際社会から見て恥ずかしい限り」と述べて、法的規制を検討する姿勢を示しました。

ヘイトスピーチの法的規制に対しては抑制的であるべき

ヘイトスピーチに対する法的規制が特殊なことかというと、ヨーロッパを中心として、ヘイトスピーチを明示的に禁止している国は少なくありません。おそらく、ヨーロッパでは、言論の自由を尊重した結果、扇動的なヘイトスピーチによってナチス・ドイツの台頭を招いてしまったという痛恨の歴史があることから、ヘイトスピーチを規制することに前向きな国が多いのだと思います。

しかし、ヘイトスピーチとはいっても、「表現の自由」という憲法で保障された基本的人権に含まれるものであって、その規制は公共の福祉に反するといった特別な場合にのみ例外的に認められるというのが法律の建前なので、法的規制に対しては抑制的であるべきです。

ヘイトスピーチの弊害は、それによって攻撃を受ける特定の属性を持つ人たちに対する侮辱や名誉毀損、平穏な生活環境の侵害といった現行の法体系の中でも対処可能な権利侵害を伴うものもあれば、そこまで至らないものもあるわけで、ヘイトスピーチという一括りでその全てを制限することには疑問なしとしません。

また、前述の安部総理の話では、規制を検討する理由が「日本の誇りを傷つける。国際社会から見て恥ずかしい限り」というのですが、「言論の自由」を制限してまで守るべき法益として「日本の誇り」や「国際社会から見て恥ずかしい」といったものが適切なのかということは慎重に検討する必要があります。

ヘイトスピーチに名を借りた、広範な表現に対する規制が可能に?

そして、仮に、ヘイトスピーチを禁止する合理的な理由を見出せたとしても、それによってどのような行為を禁止するのかを明確に規定できるのかといった問題もあります。「表現の自由」とそれを制限する要素の関係は、どこかで明確に線引きできるようなものではないからです。そこに為政者の側の恣意的な判断が介入することになれば、ヘイトスピーチ規制に名を借りた、より広範な表現に対する規制が可能になるかもしれません。

前述の京都地裁の判決があるように、特定のヘイトスピーチが他人の権利侵害になるのであれば、事後的にではありますが、そのことを理由に損害賠償等の民事上の制裁を受けることもあります。執拗に同様の権利侵害を伴うヘイトスピーチが繰り返されるようなことがあれば、裁判所に申し立ててヘイトスピーチを禁ずる仮処分命令を出してもらうことも可能です。

私自身は、現在、我が国で盛んに行われている在日の人たちを対象とするヘイトスピーチには批判的な考えを持っていますが、だからといって、国家権力がヘイトスピーチだからという理由で規制することが望ましいことではないと考えています。

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