JIJICO

西谷 俊広さん

公認会計士

海外移住者の株含み益に課税、富裕層の「税逃れ」阻止に期待

2014年10月25日

財務省、海外に移住する時点で「含み益」に課税する方針

海外移住者の株含み益に課税、富裕層の「税逃れ」阻止に期待財務省は10月21日、海外に移住する時点で「含み益」に課税する方針を明らかにしました。これは、富裕層が税負担の軽い国に移住した後で、自己が保有する株式を売却することで売却益への課税を逃れるのを防ぐためです。超富裕層向けの対策として来年の税制改正大綱に盛り込まれる見通しで、対象者は年間100人程度の見込みです。

日本国内では株式の売却益に対して国税と地方税合わせて20%が課税されますが、国によっては売却益に対しては税率が低かったり、シンガポールや香港、スイスのように税金のかからない国もあります。そのような国に移住して保有株式を売却することで、富裕層は税金を払わないで済みますし、国としては本来納税されるはずだった税金が入らないことになります。

課税を逃れたい富裕層側と課税したい国側とのいたちごっこ

このように国と国との間の税制の違いに注目することで、税金を逃れる動きは昔からあり、ごく一部の人たちが利用してきました。例えば、裁判にまで発展した「武富士事件」では、武富士創業者の武井氏が、巨額の財産を香港在住の息子に贈与した場合の課税関係が争われました。1300億円の課税を主張した国税に対し、最高裁の判決では武井氏側の主張が認められ、国は加算金を含めて2000億円を武井氏に返還しています。この事件では「居住」の要件を巡って争われ、敗訴した国は、その後、「居住」要件を見直しています。課税を逃れたい富裕層側と課税したい国側が、いたちごっこを昔から繰り返しているのです。

話を今回のケースに戻すと、実際には株を売却してもいないのに、移住する段階で売却したとみなして課税するのはやりすぎではないか、という印象を持つ人も多いかもしれません。しかしながら、米国をはじめとする先進諸国は、富裕層や多国籍企業が税金の安い国へ移住したり拠点を移したりした結果、自国の税収が減ることについて深刻に受け止めています。2012年のFacebook上場の際には、創業メンバーの一人が米国籍を外れてシンガポール国籍となっていたため、売却益への課税が行なわれなかったことが話題となりました。

米、独、仏では導入の実績があり、日本は遅すぎるという主張も

今回の移住段階での課税は、いわゆる「出国税(Exit Tax)」と呼ばれるもので、居住者が非居住者となるために出国しようとする段階、いわば根っこの段階で課税しようとするものです。米国やドイツ、フランスでは既に導入の実績があり、日本は遅すぎるという主張すらあります。消費税率が上がり、配偶者控除は縮小する方向といった増税路線の中で、富裕層の租税回避を容認するのは、社会的な合意を得づらいという判断でしょう。

出国税の対象者の基準をどうするか、転勤などの一時的な移住をどう扱うか、出国時点で税金を実際に納付するのか、あるいは納税猶予するのかといった技術的な話や、また、いたちごっこが繰り返されるのではという懸念もありますが、一定の効果は期待できるものと考えられます。

\ この記事をシェアしよう! /

専門家に相談してみよう!

西谷 俊広さん
公認会計士

この専門家について

執筆記事一覧

関連記事&スポンサーリンク

最新記事や今おすすめ記事をお届けします。
解決!アスクミー JIJICOメルマガ

>今すぐ登録する!

「経済」のその他の記事

2017年11月28日 泉田 裕史さん
税理士
解決!アスクミー JIJICO
なぜ新聞に消費税の軽減税率が適用されるのか?
平成31年10月の消費税10%引き上げ時に消費税に軽減税率が導入され、飲食品のほかに日刊紙に軽減税率(8%)が適用されることになっています。
2017年11月18日 清水 泰志さん
経営コンサルタント
解決!アスクミー JIJICO
たばこ増税検討の背景とは?他の増税もありうる?
消費税の軽減税率適用分の穴埋めに、たばこ税の増税は役立たない可能性が高いが、その他の代替財源確保も難しい。
2017年11月17日 馬場 孝夫さん
経営コンサルタント
解決!アスクミー JIJICO
企業の相次ぐ不祥事 本当に大丈夫なのか『ものづくり日本』
日本を代表する大企業のデータ偽装問題が新聞をにぎわしている。日本は製造立国として、その技術力を誇り、高品質で世界を席巻してきたことを考えると、日本の製造業の弱体化は否めない。現場力や経営体質の再構築が必要ではないか。
2017年10月29日 中山 聡さん
一級建築士・不動産鑑定士
解決!アスクミー JIJICO
過去の景気クラッシュに学ぶ不動産市場の終焉とは?
不動産市場が活況を呈しています。マンション価格もバブル景気時より高くなったとのこと。この傾向がいつまで続くのか、過去の景気クラッシュを例に専門家が解説します。

テーマ