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西谷 俊広さん

公認会計士

内部留保蓄積に対する批判は的外れ?

2015年1月9日

財務相、内部留保蓄積が328兆円にまで膨らんでいることを指摘

内部留保蓄積に対する批判は的外れ?報道によれば、麻生太郎財務相が5日、信託銀行などが加盟する信託協会が開いた新年賀詞交歓会でのあいさつで、企業の内部留保蓄積が328兆円にまで膨らんでいることを指摘し、「まだカネをためたいなんて、ただの守銭奴にすぎない」と批判したそうです。

この発言は、内部留保を賃上げや設備投資に回すよう企業に求める中で出たもので、財務相は「ある程度カネを持ったら、そのカネを使って何をするかを考えるのが当たり前。今の企業は間違いなくおかしい」とも語ったそうです。翌日の6日には、閣議後の記者会見で「個別の企業について申し上げたのではない」と釈明した上で、 「(内部留保積み上げは)デフレ不況と戦う中で好ましいとは思わない。利益が出れば賃上げ、配当、設備投資に回すことが望ましいということを説明する趣旨で申し上げた」とも述べました。

「内部留保が328兆円」は「現預金が328兆円」ではない

企業の内部留保の蓄積については、これまでにも批判の対象となったことが何度もありますが、その中には大きな誤解、単純に簿記に関する知識の不足から生じているものがあります。

内部留保というのは、会社ができてからこれまでの利益の蓄積のことをいいます。それゆえ、業歴の長い企業であるほど、多額の内部留保が計上される傾向にあります。この「内部留保」というのは、決算書を見ても該当する項目は見当たりません。というのも「内部留保」というのは、会計上の科目ではなく、決算書上では「利益剰余金」の科目で表現されているからです。

重要なことは、この利益剰余金、つまり内部留保が328兆円あるからといって、現預金が328兆円あるとは限らない、むしろ一致しないのが当たり前であるということです。というのも、基本的に企業というのは利益の獲得を目的としていますので、現金を寝かせておいても稼ぎにはならず、稼得した利益、その積み上げである利益剰余金は設備投資などに再投資済であるからです。

内部留保を賃上げや設備投資に回せという主張には疑問も

もう少し具体的にいうと、328兆円の内部留保は100兆円の現預金と228兆円の機械設備に形を変えているかもしれませんし、150兆円の現預金と178兆円の機械設備に形を変えているかもしれないということです。極端にいうと、328兆円はすべて機械設備に形を変えていて、保有する現預金は借入金なのかもしれません。「企業の内部留保が多いのはけしからん、全部賃金として還元せよ、株主配当として還元せよ」ということであれば、企業は工場や機械などの生産設備を売却して現金化し、企業を清算しなければならなくなってしまうのです。

実は、このような話は、簿記の3級程度の知識があれば容易にわかります。というのも、簿記的には、貸借対照表の左側に現金預金などの資産、右側に利益剰余金などの純資産と借入金などの負債が計上されています。左側は資金の使途を示し、右側は資金の源泉を示し、左右の合計金額は一致するものだからです。

今回のケースでは、単年度の利益を賃上げ、配当に回せという主張は理解できますが、内部留保を賃上げや設備投資に回せという主張は、おカネと内部留保を混同しているものと思われます。

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