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中山 聡さん

一級建築士・不動産鑑定士

高級分譲地から空き家だらけの団地に転落、専門家の現地リポート

2015年10月21日

東京近郊のある集合住宅の現状

高級分譲地から空き家だらけの団地に転落、専門家の現地リポート「空き家・空き家・一人暮らし・空き家・空き家…」。ここは、都心から1時間20分ほど離れた東京近郊のある団地、快速電車も停まる駅からさらにバスで上ったところにある丘陵地です。昭和50年代から日本を代表する不動産会社が造成した丘陵地で、1区画100坪、坪100万円超、建物含めて1億5000万円で分譲された場所でした。当時のターゲットは上場会社の役員、芸術家など、そんな人々がこぞって購入した住宅地です。

それが今、空き家だらけの団地になってしまいました。売却しようにも現在の地価は坪30万円、古い家の解体費を含めれば2000万円台が関の山です。売ろうにも悔しさ一杯、売るに売れず放置された空き家が立ち並んでいます。庭の草木までに怨念が移るのか、荒れ放題の庭からは草が電線に絡みついていました。

昔の高級住宅地の姿は今や見る影もなし

遠く広がる太平洋に市街地の雑踏を見下ろすロケーション、高台に続く坂道、夢の生活から40年が経過したこの住宅団地の購入者も既に高齢。延々と続く道も、高齢の身では不便な障害にしかなりません。自ら好きで買ったとはいえ、なぜ、この苦行に耐える必要があるのでしょうか。

団地内の商店は全て閉店し、唯一の交通手段であるバスも空き家の進行とともに、ダイヤ改正で時刻表から一つ、また一つと減っています。昔は高級外車が並んでいたガレージも、今では軽自動車が並びます。中には、落ち葉が吹き溜まるほど放置された車もあり、持ち主は市街地の病院に入院しているかもしれません。

田舎よりも深刻化する都市の空き家問題

ある住宅団地を例に出しましたが、これが日本の空き家の現実です。昔の高級住宅地でも、今は寂しい限り。特に住宅団地では、分譲時に購入した年代が一気に高齢化し、急速に空き家が増えていくのです。新たな入居者もなく、見るも無残な資産価値の低下は、自然条件として本来ここが住宅地として適していなかったことを意味しています。

都市計画も空き家の増加に拍車をかけています。この場所は「第一種低層住居専用地域」といって、低層の住宅地として用途が限られています。アパートもマンションも、事務所も店舗も建てられません。高さ制限もあり、事実上3階以上の建物も建てられません。高級住宅地として景観を維持してきた都市計画の制限が逆に仇となり、現在は逆に空き家を増やす原因となりました。

こうした都市の空き家問題は、田舎以上に深刻です。解決法も見当たらず、正直な現実をお伝えするのが精一杯です。もう素直に認めていいでしょう。「國敗れて山河あり、城春にして草木深し」。杜甫の詩の一節ですが、無茶な造成をして栄華を誇った場所も、半世紀で自然に帰る時が来たのです。人間の一時のおごりだったのかもしれません。日も暮れ、明かりのない家が建ち並ぶ街並みの背後には、満天の星空と豊かな自然が再発見できるのです。

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