JIJICO

半田 望さん

弁護士

認知症患者の遺言は有効?微妙な境界線を探る

2015年12月5日

高齢で認知症を疑われる状態での遺言作成は要注意

認知症患者の遺言は有効?微妙な境界線を探る近年、「終活」が取り上げられるようになり、その一貫として遺言の重要性についての理解も進んでいます。一般論として「遺言はないよりあったほうがよい」と言えますが、遺言を巡る紛争では「遺言者が遺言を作成する能力があったのかどうか」が争われることもしばしばあります。特に問題となるのは、高齢で認知症を疑われる状態で遺言を作成した場合です。このような場合、遺言は有効と見なされるのでしょうか。

まず前提として、遺言を作成するためには「遺言能力」(遺言の内容を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力)が必要とされます。民法では、「15歳に達した者は遺言をすることができる」と定めているため、遺言能力として必要な水準としては、法律行為一般より少しハードルが低い(有効な法律行為をすることができるのは成人してから)と言えるでしょう。分かりやすく言い換えれば、自分自身が作成した遺言でどのような結果が生じ、利害関係がどうなるかを判断できるかどうかということになります。

遺言の意味や効果を判別できなかったといえるかどうか

ところで、認知症といっても意思の疎通が困難な状態から、物忘れが多くなったような軽度のものまで状態はさまざまです。そのため、認知症であるからといって、必ず遺言能力がないということにはなりません。また、症状が回復して遺言能力が戻ってくるということも無いわけではありません。

実際に遺言の有効性が争われる場合は、遺言者の具体的な症状や状態に照らし、遺言の意味や効果を判別できなかったといえるかどうかが分水嶺になると思われます。

最近では、認知症が疑われる場合、まずその程度を判断するために病院などで「長谷川式簡易評価法」により検査が行われることが多いと思われます。この検査は認知症の程度を判断し、成年後見等の要否にも用いられるものであり、一つの基準として位置付けられています。

認知症の程度によって異なる判断

裁判例では、概ね長谷川式テストで15点以下の場合、その他の事情を考慮して無効とされる場合が散見され、10点を下回る場合には無効とされるケースが多いように思います。もちろん、長谷川式テストは1つの指標に過ぎず、実際の判断は遺言の内容(単純か複雑か)、遺言者が周囲と意思疎通をできたかどうか、遺言作成時の状況などの事情を踏まえて判断されます。

長谷川式テストで15点以上だから遺言能力がある、と断定することまではできません。しかし、長谷川式テストの点数が低ければ遺言が有効となる可能性は限りなく少なくなりますので、一定の基準としては有用と思われます。

認知症になる前に、あらかじめ必要な遺言を作っておく

では、認知症を疑われる方、あるいは認知症の診断を受けた方が遺言を残そうとする場合、無効にならないためにどうすればいいのでしょうか。この点はまさに本人の状況や遺言の内容によりケースバイケースであって、一般化して回答をしづらい部分ではありますが、まずは長谷川式テストにより認知症の程度を確認し、主治医とも相談のうえで、できる限り平易な内容で遺言書を作成する、というほか無いと思われます。また、遺言作成当時の様子をビデオに収めるなど、遺言能力が問題となった場合の証拠資料を準備しておくことも有益です。

なお、遺言能力が疑われる状態で無理に遺言を作成した場合、遺言が無効となることはもちろん、遺言作成を無理矢理行ったなどとして無用なトラブルを生じさせることもありますので、遺言書の作成を諦めたほうがいい場合もあります。遺言は何度でも作り直せるので、一番は自分が認知症になる前に、あらかじめ必要な遺言を作っておくことなのかもしれません。

\ この記事をシェアしよう! /

専門家に相談してみよう!

半田 望さん
弁護士

この専門家について

執筆記事一覧

関連記事&スポンサーリンク

最新記事や今おすすめ記事をお届けします。
解決!アスクミー JIJICOメルマガ

>今すぐ登録する!

「法律」のその他の記事

2018年10月8日 中村 有作さん
弁護士
解決!アスクミー JIJICO
台風で自宅待機や休業になった場合、その日の分の給料はもらえる?法律のルールを解説
今年は日本各地で災害が多発しました。大雨、強風、地震等の災害が発生して停電となったり各地で相当の損害が発生しました。台風で自宅待機や休業になった場合に、給料はもらえるか?労働法26条の規定を詳しく解説します。
2018年9月26日 村越 真里子さん
夫婦問題カウンセラー
解決!アスクミー JIJICO
「別れさせ屋」に適法判決 工作を頼む前に考えておくべきこと
「別れさせ屋」はその行為の是非が問われやすいものです。法律上の判断にかかわらず、恋愛に卑怯な行為やうしろめたい行為は避けたいものです。
2018年9月25日 林 朋寛さん
弁護士
解決!アスクミー JIJICO
ふるさと納税の返礼品の規制より、住民税の税額控除を廃止すべき
「ふるさと納税」の「返礼品」の高額化について法改正で規制をしようという総務省の方針は、住民税の減収になる自治体の問題を残しており、適切なものとは思われず、むしろ住民税の控除を廃止すべき。
2018年9月17日 五井 淳子さん
社会保険労務士
解決!アスクミー JIJICO
障害者の法定雇用率水増し問題、本来の制度趣旨に立ち返る必要あり
民間の模範となるべき省庁や地方自治体で、障害者の法定雇用率水増しが行われていた。国民を欺く行為は批判されてしかるべきだが、それだけでいいのだろうか?現行の障害者雇用制度そのものを、見直す必要があるのではないか?

テーマ