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菅原 直美さん

弁護士

「依存症」から回復するために必要な3つの宝物

2016年2月24日

依存症は精神疾患、治療が必要

妻が原因不明の頭痛やめまい…「夫源病」かも?輝かしい成績を収めた野球界のヒーローや、明るい笑顔がすてきな国民的アイドル、そんな彼や彼女が、覚せい剤の依存症者となって、逮捕されてしまったり、裁判で有罪の判決を受けたりしています。
覚せい剤をやめられない…ニュース映像で映し出される彼ら、彼女らの暗い表情に、強いショックを受けた方も多いのではないでしょうか。
覚せい剤などの違法薬物だけではなく、ギャンブル依存症や窃盗依存(クレプトマニア)、DVの背景にある対人関係への依存など、私たちの周りで起きている犯罪や貧困問題の背景に、実は何らかの依存症が深く関わっている、ということが少なくありません。
依存症になるきっかけは人それぞれですし、当初は、軽い気持ちや興味本位で、自ら違法のハードルを越えてしまったのかもしれません。
しかし、何度も覚せい剤などの依存物質を使ったり、ギャンブルなどの依存行動を繰り返していると、その依存行動を自分の意思でコントロールすることができなくなってしまい、依存症という精神疾患になってしまいます(WHOなどが国際的な診断基準を定めています)。
そして、自分の意思で依存行動をコントロールできない依存症という精神疾患になってしまえば、そこからは「やめたくてもやめられない」という苦しみや絶望を味わうことになってしまいます。
では、もし私たち自身が依存症になってしまったら、または大切な誰かが依存症に苦しんでいるとしたら、回復するためには何が必要なのでしょうか。依存症が直接の原因となっていたり、その背景にある刑事事件を専門に弁護士として活動をさせていただく中で、私が経験から考えた回復に必要な3つの宝物についてご紹介いたします。

依存症から回復したいという本人の「願い」

まず、最初に必要となる宝物、それは依存症から回復したいというご本人の「願い」です。依存症に苦しんでいると、「自分はどうしてやめられないんだ」「自分はなんてだめなやつなんだ」と考えて、自分という存在の価値を否定するようになります。
また、家族や友人から「どうしてやめないんだ」「がっかりだ」など否定的な言葉をかけられて深く傷つき、周囲との人間関係が悪くなったり、壊れてしまうことも少なくありません。
そうなってしまうと、依存症者は依存症に苦しむばかりでなく、孤独や自己否定感にも苦しむ悪循環となってしまいます。
このような悪循環を断ち切り、依存症から回復するためには、ご本人が「依存症という病気になってしまった」という事実を受け入れて、その病気を治したいと本気で思うことが必要です。
どうせだめだ、と諦めるのではなく、やり直したい、変わりたい、そうご本人自身が「願う」とき、初めて回復への扉が開かれるのだと思います。

依存症から回復するための専門的な「治療」

では、2つ目に必要な宝物はなんでしょうか。開かれた扉の向こうに待っているもの、それは依存症から回復するための専門的な「治療」です。
依存症になってしまうと、脳の機能に障がいが出ていたり、精神のバランスが崩れていたりします。このような「病気」の部分に対しては、その症状に合った専門的な治療が必要です。
例えば、条件反射制御法という治療法のように、脳の指揮系統に直接かつ複数回働きかけを行い、依存物質が脳に与えていた影響を直接なくすという治療があります。また、認知行動療法といって、どのようなときに薬物を使ってしまうのか、その行動を分析した上で、薬物を使わない方法を考えるという心理的な治療方法もよく使われています。
私は医学の専門家ではありませんが、弁護士として依存症に悩む多くの方にお会いし、その治療を見守った経験からは、ご本人が自分に合う医師や治療方法を見つけられ、ある程度の期間落ち着いて治療を受けることによって、依存症の「病気」としての側面は相当程度回復できるのではないかと考えています。

同じ依存症で苦しんだ経験を持つ「仲間」の存在

そして、最後に、一番大切な3つ目の宝物をご紹介します。それは、同じ依存症で苦しんだ経験を持つ「仲間」の存在です。
治療共同体、という言葉は、まだ日本では耳なじみがない方も多いかもしれません。治療共同体とは、依存症に悩む方たちが集まり、お互いに依存症からの回復を支援しあう団体で、海外ではTC(セラピューティック・コミュニティ)と呼ばれ、アメリカ合衆国のアリゾナ州にあるアミティなどが有名ですが、日本にも全国各地にあるダルクさんや、奈良県にあるガーデンさんなどが治療共同体として活動を続けられています。
治療共同体では、どうしたら依存症から回復できるのか、その背景にある問題(例えば人とのコミュニケーションの問題や、トラウマ、貧困など)にも目を向けたきめ細かいプログラムを行ったり、仲間同士で悩みを分かち合ったりしながら、依存症から回復した人生を歩むための総合的なサポートが行われています。
依存症で悩み苦しんでいる渦中、ご本人は周囲からも見放され、孤独や自己否定感にも悩んでいるということは、最初にもお話しましたよね。その悪循環を医療で断ち切った後は、2度と薬を使わないようにするために、仲間たちがお互いに支えあい、少しずつ人生をよい方向へ転換していこう、そうやって社会内でお互いが支えあうシステムが、治療共同体なのだと考えられます。
また、治療共同体だけでなく、自助グループといって、依存症に悩む人たちが悩みを分かち合ったり、アドバイスをしあう会合も全国で開かれています。依存している物質によって、AA(アルコール・アノニマス)やNA(ナルコティック・アノニマス)、KA(クレプトマニア・アノニマス)などと呼び名が違いますので、ご本人と同じ依存症で悩んだ経験のある仲間を、自助グループで見つけることもできると思います。

依存症からの回復は理解や共感できるもの

さて、3つの宝物、という言葉で、依存症からの回復についてご紹介してきましたが、この文章を読まれた方の中には、依存症についてすこしキレイに言い過ぎているように聞こえた方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、私が弁護士として今までにお会いした依存症に悩む人たちは、みんな心から「やめたい」と思いながらやめられず、悩み苦しんでいる人たちばかりでした。
思えば、依存症だけでなく、人生では思いがけない悲しみや苦しみを味わったり、悩んだり涙を流したり、つらいことがたくさん起こりますよね。
そんなとき、そのつらさを乗り越えたい、また笑顔になりたい、希望を持てるようになりたい、私たちは誰しもそんな切実な「願い」を抱くはず。そして、依存症の方にとってはその願いこそが、最初にご紹介した1つ目の宝物、なんですよね。
そう思うと、依存症に悩んだり苦しんでいる方の回復のプロセスと、私たちが人生の試練を乗り越えるプロセスは、そんなに違いがないのではないか、と私自身は考えています。
もちろん、覚せい剤の使用などは違法行為であり、そうである限りは、依存症であるご本人が逮捕されたり、裁判になるということは避けられません。それは社会の中のルールとして、依存症であるご本人自身が受け入れなくてはならない現実だと思います。
しかし、視点をその回復のプロセスに移してみるならば、依存症からの回復は、私たちの人生にとっても理解や共感ができるものではないでしょうか。
この文章が、少しでも依存症やその回復プロセスについて皆様に知っていただいたり、共感していただけるきっかけになれば嬉しく思います。

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菅原 直美さん
弁護士

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