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半田 望さん

弁護士

安倍政権下での改憲はどうなる?実現すると日本にどのような影響があるのか?

2016年7月3日

参院選の結果次第では憲法改正が現実味を帯びてくることも

本年7月に実施される参院選において,与党自民党は憲法改正を明確な争点としない,という報道がありました。
他方で,野党は今回の参院選は与党単独で衆参両院の3分の2を確保し,憲法改正の発議ができることを許すかどうか,ということを明確に争点としています。

また,安倍政権はこれまで憲法改正を何度も訴えており,選挙結果によっては憲法改正が現実味を帯びてくるかもしれません。
そこで,今回は安倍政権が考える憲法改正の内容,特に緊急事態条項について,法律家の立場から分析を加えたいとおもいます。

憲法改正のポイント 緊急事態条項とは?

緊急事態条項という言葉,耳慣れないかもしれません。
これは,戦争や大災害といった事態が生じたときに,いったん憲法を停止し,内閣に強大な権限を与え,人権を制限することも認めるというものです。
自民党の憲法改正草案では,内閣総理大臣が,事前または事後の国会の承諾を得て緊急事態を宣言した場合,緊急事態が終了するまでは衆議院が解散されず,内閣の判断で本来国会で制定される法律と同様の効力をもつ政令を制定することができ,また表現の自由や財産権といった基本的人権の制限も可能となるというものです。

この緊急事態条項については,法律家(弁護士や憲法学者)からの批判が多いものとなっています。
字数の関係がありますのでここでは概略にとどめますが,自民党草案の緊急事態条項に対しては「阪神大震災も東北大震災も既存の法律の運用で対処できたのに,あえて災害対策のために憲法で緊急事態条項を設ける必要があるのか(既存の法律の再整備で十分なのではないか)」という必要性(立法事実)に関する疑問と,「緊急事態の発動要件が曖昧で歯止めも緩いにもかかわらず,内閣総理大臣の『独裁』を認めるに等しい強力な内容を設けてよいのか」という内容に関する疑問が呈されています。

本稿では草案や反対意見の是非についてコメントはしませんが,ぜひ草案の原文と,これに対する法律家や憲法学者からの意見(インターネットで複数見ることができます)をお読みいただければと思います。

自民党改憲草案は日本国憲法と価値観や意味合いが大きく異なる

自民党の改憲草案については,緊急事態条項のほかにも色々な意見や指摘・批判がなされていますが,弁護士として絶対に述べておきたい点をあと1点だけ指摘しておきます。
それは,自民党の改憲草案が,現在の日本国憲法とは価値観や意味合いにおいて大きく異なるものであることです。
日本国憲法も当然の前提としている立憲主義の下では,憲法は一般の法律と違って国民から国家権力に向けて提示された約束事であり,多数決や国家権力の思惑でも制限できない「基本的人権」を定めるものです。
一般の法律は国民が守るべきものであるのに対し,憲法は国民が政府に対して「憲法に違反する法律を作ったり政治をしてはいけない」ことを守るよう求めるものなのです。

これに対し,自民党草案は,基本的人権を制限できる可能性を認め,国民一人ひとりの自由よりも公益や国家秩序を優先するような体裁になっています。
また,憲法において詳細に国民の義務を定めるなど,「国家が国民に向けた『秩序を維持し義務を果たすよう求める』もの」と読めるような内容だと筆者は理解します。
これは,先ほど述べた,憲法=国家権力を制限し基本的人権を守る,というものではなく,国家権力が国民に対して権利を認め,守るべき義務を指示するものであって,立憲主義に基づく憲法の価値観とは正反対の内容になりえるもの,なのです。
自民党憲法草案は日本という国のあり方・価値観を大きく転換させるものだと思いますが,憲法議論は難しいしよく解らないのでどうでもいい,という声も良く聞きます。世論調査でも憲法が争点である,と考えている人は多くないという結果も出ています。

 ですが,先日のイギリスがEU離脱を決めた国民投票のように,事の重大性があまり理解されないまま憲法改正が進み,内容がよくわからないけどとりあえず賛成,として改正がなされてしまうのは望ましくありません。
あとで「そういうつもりではなかった」と思ったとしても,取り返しがつかないかもしれないのです。
 

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