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清水 泰志さん

経営コンサルタント

日本企業に求められる働き方改革 生産性向上にはどうすれば良いか?

2017年1月22日

長時間労働の是正は働き方改革の重要テーマ

一昨年12月に電通新入社員が自殺した原因が、過重労働だったとして労災認定され、各方面で様々な議論を呼んでいます。
この結果を追いかけるように、厚労省から『平成28年度版過労死等防止対策白書』が発表され、「長時間労働の是正」という課題がクローズアップされています。

「長時間労働の是正」は安倍内閣の「ニッポン一億総活躍プラン」の目玉である「働き方改革」の重要テーマでもあります。
ただし世の中では、長時間労働問題に含まれる2つの主題を切り分けず、さらに「労働生産性の向上」を「効率化」によって達成出来るという誤解があるために、我田引水な議論が繰り返されるだけで、日本における将来の労働あり方が見えづらくなっています。

長時間労働の是正を考えるには2つの観点があることを認識

先ず、なぜ安倍政権が「長時間労働の是正」を掲げているかというと、体力勝負ではなく子育てしながらでも働ける労働環境を整えることで、女性が活躍しやすい社会を実現し、少子高齢化によって減少傾向にある総労働力を増やそうという狙いがあるからです。

一方、同じ「長時間労働の是正」であっても、「36協定」が意図するところは、労働者の過労死を防ぎ、健康的な生活を守るための最低限の基準を定めることです。

つまり、同じ「長時間労働の是正」であっても、労働者の健全な生活を守ることと、社会の活力を維持するためにあえて労働時間を抑制することは、まったく次元が違う話で、当然目指すべき労働時間の長さも異なります。
「長時間労働の是正」を考えるにあたり、最初に「ニッポン一億総活躍プラン」と「36協定」という2つの観点があることを認識し、きちんと切り分ける必要があります。

労働生産性の改善で本当に長時間労働の是正につながるのか?

次に、「長時間労働の是正」の方法についてですが、労働生産性の改善こそが必要だという考え方が主流になっています。
日本生産性本部が、昨年12月に発表した『日米産業別労働生産性水準比較』という調査結果が、「直近の日本の労働生産性水準は、製造業で米国の7割(69.7%)、サービス産業で5割(49.9%)」という内容だったために、過重労働の解消のためにも働き手の多様性の確保のためにも、労働生産性の改善が必須だという論調に拍車をかけました。

しかし「長時間労働の是正のためには、労働生産性を向上すればよい」という一見すると分かりやすい考え方には、2つの問題点が含まれています。

国際的比較で労働生産性が低いとは必ずしも言えない

一つ目は、「本当に日本の労働生産性は低いのか」という根本的な疑問です。
労働生産性は、[付加価値額]÷[就労人数]=[一人当たりの付加価値額]で求められますが、分母にあたる「就労人数」はバイアスがかかりやすい数値です。

例えば、業績が悪化した企業がレイオフを躊躇なく行えば、失業率は悪化する一方で、就労人数が減るために労働生産性は向上します。
労働生産性の国際比較において、日本は22位(2015年時点)で失業率は3%台ですが、10位以内のフランスとベルギーの失業率は、それぞれ10%台と8%台と高い水準になっています。
また、国外から働きに来ている人は就労人数に含まれません。
欧米においては、国外からの労働者の割合が日本よりはるかに高いので、その分就労人数が少な目にカウントされることになります。
このように、労働生産性の数値を諸外国と単純に比較して、一喜一憂するとか他国をベンチマークすることに、それほど意味はありません。

労働生産性を上げても給料アップにつながらない状況

二つ目は、労働生産性向上のために従業員が努力を行っても、給料アップに繋がるとは限らないという問題です。
市場が成長している時代では、生産性の向上が売上増大という効果をもたらしますが、現在の日本のように、人口減少が始まり市場が縮小している状況では、供給が需要を上回っているので、従業員が生産性を高める努力をしても給与に反映されることはなく、モチベーションアップは期待できません。

つまり、長時間労働の是正のため、残業ゼロに向けて、効率良い働き方を実現する必要があるとして、日本人をこれ以上頑張らせることには、そもそも無理があります。

私たちが「働き方」を考えるときに必要な視点は、「効率化」ではなく、「時間をお金に換える」というこれまでの働き方が限界を迎えているという認識からスタートする必要があるのです。
これが、「仕事の質的変革」という課題です。

新たなビジネスモデルの創造や会社に依存しない働き方の確立が重要に

労働生産性の国際比較はあてになりませんが、「日本の労働生産性は高いのか」と問われると、決して「高い」とは言えません。
分子である「付加価値額」が低いことに間違いはないからです。
日本では、企業の利潤を確保し増やすために、「効率」を高めることこそが重要だという考え方が、これまで支配的でした。
そのために、大量生産、大量販売、シェア拡大、業務改善、物流改革・・・という経営管理手法を駆使することが、経営者に求められたのです。

しかし、これからの日本が労働生産性を高めようとするならば、安い人件費を確保することで安い原価を実現し薄利多売を目指すという「効率」に頼ったビジネスから脱却することが大切です。

そのためには、より高い付加価値を生み出すビジネスモデルを生み出し、新たな市場を創造したり、国内で少ないパイの奪い合いだけに終始したりするのではなく、企業規模の大小に関わらず世界に打って出るという覚悟が不可欠です。
ところが、付加価値の高いビジネスが、経営者一人の頭脳から生み出される可能性は低いでしょう。

したがって、真の働き方改革とは、会社側においては、現状に疑問を抱き、物事を批判的に捉え、問題解決のために自ら行動するような従来の基準に照らせば「疎ましい」人材を惹きつけるような理念を明確に打ち出すことからスタートします。
そのうえで、正社員や通勤というこれまでの働き方に拘らずに、有能な人材に効率的な仕事をしてもらうのではなく、高い付加価値を生み出す仕事をしてもらうようにすべきでしょう。

また、働く側の立場では、やはり必ずしも正社員という身分拘らずに、自分のスキルアップのためには投資を怠らず、強みを武器に複数の企業から報酬を得られるような自営自立的な働き方を目指すことが望ましいと思います。

そうなれば、日本の労働生産性の向上は、付加価値額のアップによって結果として達成されるはずです。

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