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村田 晃さん

心理学博士・臨床心理士

「産後うつ」の実態と予防・対処法について

2017年2月23日

「産後うつ」の実態が徐々に明らかに

最近の読売新聞に、東京都監察医務院と順天堂大の調査から、2014年までの10年間で妊娠から産後1年以内に自殺した女性は、東京23区内だけで63人、このうち産後は40人だった、との記事が掲載されました。
また、その5割が「産後うつ」など精神疾患の診断を受けており、また、出生10万人あたりの妊産婦の自殺数は8.7人で、出血などによる死亡数(産後42日未満)3.9人を上回っていた、とありました。
なお、「産後うつ」等による妊産婦の自殺者についてこれまで全国的な調査はなく、詳しい実態は分かっていなかった、とのことです。
それで政府も、今夏の新しい自殺総合対策大綱に母子保健事業と連携した妊産婦支援の重要性を盛り込む、とのことです。

このいわゆる「産後うつ」について、最新の国際的な心理学研究を基に解説したいと思います。

「産後うつ」を「周産期うつ」ととらえる

まず「産後うつ」という言葉ですが、国際的に広く使われている診断基準の一つであるDSM-5(アメリカ精神医学会)では、「周産期」に発現するうつ(以後「周産期うつ」と略称)ととらえ、出産後(4週間)だけではなく妊娠中も含んでいます。
というのはDSM-5によると、いわゆる「産後うつ」の50%はその症状が妊娠中から発現しているからです。
以上から、いわゆる「産後うつ」を出産後だけの症状ととらえてしまうのは、発現の見逃しにもつながります。
したがって、今後は単に「産後うつ」ではなく、妊娠中をも含む「周産期うつ」ととらえて解説したいと思います。

また「周産期うつ」については、普通のうつ病と違う何か特別のうつ病が周産期に存在するというのではなく、うつ病が時期的に妊娠・出産を挟む「周産期」に発現したと、その発現時期に着目したとらえ方がDSM-5の見方です。
つまり、「周産期」がうつ病発現のきっかけになるとの見方です。
したがってその基本症状自体は、「落ち込んだ気分」や「興味・楽しみ感の喪失」を中心とする一般のうつ病と同様です。
ただし、「周産期うつ」には強い不安(不安障害)が伴いやすいことも認められています。

「周産期うつ」は男性(父親)にも起きる

更には、この「周産期うつ」は必ずしも女性(母親)だけでなく、男性(父親)にも起きることが研究で知られています。
米国のある研究(2010年)によると、「周産期うつ」は約10%の男性(父親)に見られたとのデータがあります。
子どもの出産に伴う父親のうつについては余り焦点が当てられておらず、研究もまだ少ないといえますが、子どもの養育や夫婦間の関係に与える影響を考えると、母親の「周産期うつ」と同様に今後もっと考慮が必要な問題といえます。

「周産期うつ」の原因及び危険因子

「周産期うつ」の原因については、種々の要因が考えられています。
例えば、出産前後のホルモンの変化の影響です。
具体的には、出産後のいわゆる女性ホルモンのエストロゲンなどの急激な減少などです。
しかしながら、決定的なことが分からないというのが現在の定説です。

このように確たる原因は未だはっきりしないものの、「周産期うつ」に至りやすい危険因子は特定されています。
それらは身体的・心理的・社会的・文化的などと多岐にわたっていますが、その中で特に心理的・社会的要因の重要さが指摘されています。
それには、たとえば人生でのストレスの高い出来事や、妊娠に対する否定的な態度も含まれています。
このように危険因子は多岐にわたるものの、それに対処するものとして研究は一貫して「周囲のサポートの重要性」を指摘しています。

「周産期うつ」の予防・対処法

「周産期うつ」の予防や対処法を考えるにあたっては、まず当事者である母親そして父親が妊娠と出産についてよく知ることが大事と思います。
具体的には、妊婦の健康診査を受けること、市区町村の母子保健担当課に電話したりして、相談などの母子保健サービスを積極的に利用することです。
このように妊娠と出産について当事者が正しく認識し、またそれに伴い受けられる各種公的サービスや社会資源を知ることで無用な不安が減少するでしょう。
このような各種社会資源利用による予防の効果は研究でも認められており、それが先に述べた「周囲のサポートの重要性」の指摘につながります。

「すこやかな妊娠と出産のために」と題する厚生労働省の次のパンフレットも参考になります。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken10/dl/01.pdf
その上で、必要に応じて医療機関等を受診するのがいいと思います。

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