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加藤 豊さん

不動産コンサルタント

ほとんどの新築住宅は余った土地に建築?「再建築率」が史上最低に

2017年4月12日

古い家を放置、または建て直しても住戸数を増加。空き家が増える悪循環に

2fbce74156281d80162199ad952cbdf1_m2017年2月28日、国交省は2015年度の「住宅着工統計による再建築状況の概要」を発表、「再建築率」が史上最低を更新し「8.4%」にまで下がりました。
結論からいうと、中古住宅を取り壊さずに新たな住宅を建てる、または取り壊して建てる場合でも、特に賃貸アパート・マンションの場合には、元より多くの部屋数を作っている状況がうかがえるのです。
住宅の着工件数が減ろうとも、(多くの古い家をそのままにして)余っている土地に新たな家を建てる傾向が続く限り、ますます空き家の数が増えてしまいます。

ここで、「再建築」とは「既存の住宅の全部または一部を除却し、引き続き当該敷地内において住宅を着工すること」と定義されています。
つまり、既に建ってある住宅を壊して、同じ敷地に新たに住宅を建て直すことを指します。
「再建築率」とは、その年に新設された住宅着工戸数に対して、再建築された戸数の割合をいいます。
大雑把にいえば、新築された建物の内、どれだけが既存の建物を取り壊して新たに建て直したのかを表します(戸数ベースで比較します)。

今から20年前の1996年度には21.5%あった再建築率が年々減少、過去最低であった2014年度の9.1%よりもさらに悪化し、2015年度には「8.4%」にまで落ち込んだのです。
中古住宅を取り壊して再建築した住戸は、わずか約12戸に1戸の割合にとどまっているということです。

尚、統計上の定義において、取り壊した後に新築したとしても、解体後“すぐに”着工しない場合は再建築にカウントされません。
12戸に1戸という割合が実態をそのまま表しているとは言い切れませんが、少なくとも過去との比較において再建築率が下落していることは注目に値するでしょう。

賃貸アパート・マンションは取り壊す前よりも2.5倍の住戸を作っている

建て直された住宅に絞ってみても、住戸を増やしていることが分かります。
2015年度に再建築するために取り壊された(除却された)住宅戸数は「約5.5万戸」、その跡地に再建築された住戸は「約7.8万戸」と、取り壊す前の約1.4倍に住戸の数が増加しているのです。
その中でも特に、取り壊す前も後も賃貸アパート・マンション(貸家)であるものをみると「約2.5倍」と突出して元より多くの住戸を作っていることが分かります。
平均世帯人数が減少する中、小さな部屋を建築するために住戸数が増えていることや、同一敷地で収益を最大化させるために、昔と比べて敷地面積を最大限活用して部屋数を増やしていることなどが一因でしょう。

それをさらに都市圏別にみると、首都圏「2.8倍」・中部圏「1.8倍」・近畿圏「1.7倍」・その他地域「2.4倍」と、首都圏のみならず「その他地域」が、中部圏・近畿圏よりも倍率が高くなっています。
貸家の住戸が増えることを直ちに否定するわけではありません。
都心部など需要が高い地域では、一定数の住戸は必要でしょう。
しかし、東京都によると、都内でさえ空き家が約82万戸(2013年時点、空き家率は約11%)、内、約60万戸は賃貸用です。地方圏では人口減少が進んでいることもあり、空室率も20%を超えているところも少なくありません。
需要と供給のバランスが悪化し、既に貸家が過剰になっている中で住戸数が増えているのです。

国や自治体は、老朽化住宅の取り壊しや新築エリアの誘導を促す

国や自治体としても、新たに建物を建てる場合には劣化した物件を取り壊す、または、将来も人が住む(需要が見込める)場所に新築物件を建てるよう促すことで使い道のある建物を残そうとしています。

例えば、「住宅ストック循環支援事業」や「立地適正化計画」も住宅の数を抑える政策とみることができます。
住宅の建て替えに際して、耐震性がない住宅を取り壊すことを補助金支給の要件としたり、新築する場所を「居住誘導区域」に誘導したりしているのです。
空き家が増えると、老朽化による倒壊や火災など近隣住民に被害を与える原因にもなります。
また、所有者が不明となりがちで、不動産開発を妨げる遠因にもなりかねません。大げさに言えば、日本全体に悪影響をもたらすのです。

一方、空き家が全て問題であり取り壊せばよいというものでもありません。
中古住宅の品質も見抜きやすくなった今、適切にメンテナンスされているのに「中古だから」という理由で敬遠されていた適正な既存住宅に目を向け、取引を活性化させることも必要でしょう。
国としても、中古住宅の流通促進に向け安全な取引環境を整えるべく、インスペクション(建物状況調査)を促す改正宅建業法を2016年に可決しています。

古家をそのままにしていては空き家の数は減りませんし、既存の資産(中古住宅)を活用せず需給バランスからかけ離れた新築を行えば日本経済の損失にもつながります。
不良住宅を適切に取り壊すとともに、良質な中古住宅をきちんと選別していくことで住宅の新陳代謝が促され、健全な不動産市場が形成されることを期待します。

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