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岸井 謙児さん

臨床心理士・スクールカウンセラー

体罰の報告数の減少は教育の質の改善による結果なのか?

2017年5月12日

体罰の報告数は年々減少傾向

0db048322406acb3c631aeeed97e7002_mかつて大阪の公立高校の運動部顧問の体罰により生徒が自殺をした事件が世間に衝撃を与えました。
その後数年を経て、学校現場での体罰をめぐる状況はどう改善されたでしょうか。

厚労省による最新の2015(平成27)年度調査結果を見ると、全国で体罰により処分等を受けたのは721件で、前年度に比べ231件減となりました。
先の事件が起きた2012(平成24)年度の報告では2,253件、その翌年2013(平成25)年度の体罰による処分等は3,953件となっていたことからすると、体罰に関する報告数はここ数年で明らかに減少しています。
確かに数が減ったことは喜ばしいことですが、それが処分された報告数である事を考えるとそれだけで教育の質が改善されたということにつながるとは言えません。
もちろん体罰は容認できませんが、逆に一部の教育とは言えない暴力の摘発や全体の報告数だけに目を奪われると、それが学校教育全体に及ぼす影響を見過ごすことになりはしないかという危惧も残ります。

体罰を問題視するあまり指導の方法論に目を奪われることに

冒頭にあげた大阪の事件の後行われた大阪市内の中学校の先生方に対するアンケートの中では、約4割が生徒から「かかってこいよ」「体罰で訴えてやる」などと言われる挑発が増えたと感じており、約6割が「生活指導をやりにくくなった」と回答されたそうです。
体罰を問題視するあまり、体罰などとは無縁の多くの教員や学校全体の指導のあり方にまで影響が及んだことが見て取れます。
「体罰」自体は許されないにしても、やはり人の生死に関わる逸脱行為や集団の秩序から著しく外れて周囲に悪影響を及ぼすような行為に対しては父性的に厳しく接することが否定されるべきではないでしょう。
ところが実際は指導の方法論に目を奪われて、周囲からの批判に敏感になってしまうのも現実だと言えます。

「厳しくするから屈折・反抗するのだ」「やさしくするからわがままになるのだ」という論議が現場や教育評論家の間で交わされることがあります。
ただ実際のところ「厳しい父性的な指導―やさしい母性的な指導」という対立軸のどちらかの軸にバランスが一方的に偏る時、結果的に弊害が生じかねません。
「体罰」自体は許されるべきではありませんが、「体罰」に象徴される厳しい嫌悪刺激による指導がすべて否定され「ほめて認める」ことだけが教育的効果を上げるという見方は、その逆の見方と同じように一面的な見方と言うこともできます。
私たちが左右の眼球による見え方の差によって現実に多面性と奥行きを感じることができるように、一面的な見方や考え方はわかりやすい反面、平面的で単純な結論を導きかねないのです。

厳しさとやさしさのバランスに基づく柔軟な指導が教員には求められる

教育の専門家としての教員には「厳しくするべきーやさしくするべき」などの単純な対立軸に固執するのではなく、「厳しくすることが必要な場合には厳しくすることができ、やさしくすべき時にはやさしく接する」という当たり前ながらも柔軟な指導が求められています。
問題はそれが果たして指導する教員側の感情的な言動ではなく、本当に子供のことを考えた上での言動なのかを子供たち自身が一番感じ取っているということです。

教育というものが教師と子供の信頼関係の上に成り立つものであることを考えると、一時の感情からの暴力や盲目的に受容する甘やかしではなく、「子供の成長を導くために必要な厳しさー父性」「子供の成長を促すために必要な受容―母性」のバランスに基づく冷静な関わりが求められていると言えるでしょう。

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