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清水 泰志さん

経営コンサルタント

タカタ民事再生を申請 負債総額1.7兆円に

2017年7月4日

タカタ民事再生を申請 製造業で戦後最大の倒産

エアバックの大規模リコール問題に直面していたタカタは6月26日、民事再生手続き開始を東京地裁に申請し、受理されたことを発表しました。自動車業界として史上最大規模のリコールは、世界有数の自動車安全部品メーカーの経営破綻に発展しました。実質的な負債総額は1兆円を超え、製造業では戦後最大の倒産となります。

今回のタカタ倒産は、エアバックのインフレーターの欠陥そのものより、欠陥が発覚してから8年以上も時間が経過しながら、遅々として進まない原因解明、リコール対応、補償の状況に対して、自動車メーカーや日米政府から、「タカタは不誠実だ」という印象を持たれて、協力ではなく引導を渡されてしまったからと言えます。

こうしたタカタの姿勢について、早速いろいろな原因分析が行われています。「危機管理能力に乏しく初期対応を誤った」「創業家が保身を図ったことが問題の解決の障害になった」「技術に対する自信が仇となって問題を矮小化した」等々。しかし、こうした一般的なニュース解説は他に譲ることにして、ここではタカタの倒産をもっと別の角度から見てみましょう。

事件・事故後の対応に失敗する事例が後を絶たない

事件や事故が起きたとき、事件・事故自体もさることながら、今回のタカタのようにその後の対応の拙さが問題を大きくすることがよくあります。記憶に新しいところでは、2010年に起きたトヨタのプリウスのリコールがあります。そのたびに、問題をこじらせた原因分析がされますが、事後の適切な対応に失敗する事例が後を絶ちません。なぜなのでしょうか。

その答は、原因分析の結果導かれる一般化された教訓に意味がないからです。タカタの場合で言うと、「危機管理意識が低かった」ことが原因だとすると「危機管理意識を高めよう」が、「創業家の保身」が原因だとすると「創業家の暴走を許さないガバナンス体制の確立」が、そして「技術に対する過信」が原因だとすると「技術志向を戒め市場の声に耳を傾ける」が教訓として語られます。でも、それは単に原因になったことを裏返しているだけです。

昔から「交通事故の原因はスピードの出し過ぎだ」と言って、警察はスピード違反の取り締まりを熱心にやっています。たしかに、制限速度を守っていれば事故が起きなかった、あるいは事故が起きた場合でも死者は出なかったということは多々あるでしょう。実際、年々交通事故の死亡者数は減少していますが、交通事故件数そのものは減少していません。では、なぜ死亡者数が減ったかというと、スピード違反の取り締まりのおかげではなく、救急救命の技術向上や体制整備、自動車の安全性能向上が寄与しているところが多いのです。

同じように、サラ金による多重債務者の増加が問題になったとき、「借り手が悪いのではなく、サラ金が貸しすぎるのが問題だ」として、2010年に総量規制を導入しました。その結果どうなったでしょうか。世の中にお金を借りてでも必要とする人の数が減ることはありません。サラ金で借りていた人が闇金に流れ今まで以上の金利負担に苦しみ、グレー金利の廃止により多量に発生した過払い金返還のために体力が弱った消費者金融会社は、潰れるか銀行の傘下に入ることになりました。そして、総量規制対象外の銀行が、今度はカードローンで貸出攻勢を強めるという状況に変わっただけで、本質的に問題が解決したことになっていません。

タカタが倒産に至った理由

今回のタカタについても同じことが言えます。タカタのコーポレートサイトを見ると、安全やユーザー保護に対する意識が低い会社とは思えません。「クルマ社会の安全を考えることに、終わりはありません。シートベルト、エアバッグ、チャイルドシートなど、人の命にかかわる製品をつくる会社として、社会的責任を自覚し、安全な世界の実現に貢献していきたい。そのために、これからも確かな安全を追求し、さらに進化をつづけます」と宣言しています。コーポレートガバナンスについても、TK-CG体制という仕組みを整備していることを高らかに唱っています。

それでも現実には、危機管理意識の乏しさや創業家による支配や技術志向という風潮はあったかもしれませんが、目を向けるべきは、さらに奥に潜んでいる真因です。怠慢だったとか不誠実だったということではなく、むしろ優秀な人々が、その時々の状況に対して、都度真面目に合理的な判断をしたことにあるのです。

経済学の用語に「合成の誤謬」という考え方があります。「ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも良くない結果が生じてしまうこと」を意味します。

タカタの場合、最初にエアバックの異常作動が疑われる事故の一報に接したとき、「これは一大事だ!」と大騒ぎするより「何が原因か分からない以上、しばらく様子を見よう」という判断をすることは、必ずしも不合理ではありません。また、「インフレーターの異常爆発の原因を断定できず、製品不良を決定付ける結果が出ない状況」で、自動車メーカーとの間で責任の所在が不明で費用負担が決められないまま、「リコールを地域限定から全米に広げろと求められてもやりようがない。そもそも部品供給が追いつかないのに大風呂敷を広げても・・・」と考えることに、一定の合理性はあります。さらに、「原因解明が難航する中、トップが謝罪をすることは、高い技術力によって作りあげられた企業イメージを損なうマイナスの方が大きい」とした判断を100%思慮が足りないと決め付けられるでしょうか。

しかし、このようにその時々で最善の合理的判断を積み重ねていった結果、自主再建の道も私的整理の道も閉ざされ、倒産という最悪の結果を招いてしまいました。

危機管理の模範事例


危機管理の手本として取り上げられる事例に、1982年のジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J社)の一件があります。店頭に置かれた頭痛薬『タイレノール』のボトルに何者かがシアン化合物を混入し、7人が死亡するという事件が起きました。当時のCEOジェームス・E・バークは、その情報を知ると即座に行動を起こしました。ハロウィーンが近い時期でもあり、パニックを避けるために、FBIがリコールを勧告しなかったにも関わらず、バークは全国の販売店から3100万本の『タイレノール』を一つ残らず回収させ、不正開封防止機能付きのボトルを新設計させたのです。そのコストは1億ドルにのぼりました。新ボトルに変えて『タイレノール』を再び市場に出したものの、イメージが悪化した商品では、かつての35%のシェアを回復するのが難しいどころか、商品の存続すら危ぶむ業界関係者が多かったのですが、1年後には30%までシェアは回復しました。

この一件におけるJ&J社の対応は、今や危機管理の模範例として広く知られています。「最初から最悪の事態を想定して、最大限の対応を迅速にとるべきだ」「情報を包み隠さず公開し、正しいことを実行するに勝ることはない」「自社の保身ではなく顧客のことを第一に考え、損して得を取る姿勢がピンチを逆にチャンスに変えるのだ」などなど、人はこれを好事例とばかりにいろいろな教訓を一般化して語ります。

しかし、本当に重要なことは違います。事件や事故が起きたときの危機対応をマニュアル化しても意味はありません。J&J社の場合、真に重要な瞬間は事件の3年前に訪れていました。J&J社は「クレド」を持つ企業です。クレドには「われわれは、医師、看護師、患者、母親、父親、そしてわれわれの製品とサービスを利用するその他すべての人たちに対して第一の責任を負うと信じている」と書かれています。しかし、上場から半世紀近くが経過すると、資本主義の中で日々突き付けられる課題に対して現実的な意味を持たないと考え、経営陣がクレドを気にも留めなくなっていました。その状況を憂慮したバークは、主要な役員20名を一室に集め、クレドの上に指を置いて、今後J&J社はこのクレドを経営のあらゆる状況において最優先で尊重していくことを宣言したのです。だからこそ、この事件が起きたときも、バークは対応に迷うことはありませんでした。彼にとって、事件に対してとった行動は、決断ですらなかったのです。それが正しい行動であることがわかっていたから。

フィロソフィの欠如が企業をダメにする

もうお分かりの通り、タカタが倒産の憂き目に至ったのは、製品不良への初期対応を誤ったことでも上場企業にも関わらず同族支配が強かったことでもありません。企業としてのフィロソフィを失ったために、意志決定のプロセスに営利やプライドといった物差ししか残っていない状況が生まれた何年も前に、崩壊の物語は始まっていたのです。

本来、創業家にはフィロソフィのエバンジェリストとして欠くこと出来ない役割が期待されていますが、創業家自ら理念を失ったことで、企業文化の毀損に拍車を掛けたことは想像に難くありません。優秀な人々が、フィロソフィというマクロ的な指針を持たず、ミクロ的で貧弱な指針だけを頼りに正しい判断を繰り返せば、合成の誤謬を生み出すのは、ある意味当然の帰結です。

過去に再建に成功した日産のカルロス・ゴーン氏やJALの稲盛氏が時間をかけてフィロソフィの浸透に努めた理由は、ダメになる企業に共通したフィロソフィの欠如という病因を知っていたからです。

経営者は、「もし、このことが実現できなくなったら事業をやめる」とまで言えるほどのフィロソフィを持っているかどうか、これを機会に自問をしてみてください。それがなければ、タカタの倒産は決して他人事ではなく、明日は我が身の覚悟が必要です。

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