JIJICO

加藤 豊さん

不動産コンサルタント

なぜ「おとり広告」がなくならない?本来の不動産仲介サービスのありかたとは

2017年12月7日

解決!アスクミー JIJICO

「おとり広告」を行う悪質業者の物件掲載を停止する措置に踏み切った

実際に契約できない物件であるにも関わらず、自社への来店を促すという身勝手な目的で広告を打ち出す「おとり広告」。

関東・甲信越の10都県の不動産団体が加盟する「首都圏不動産公正取引協議会(公取協)」は、かねてよりこの「おとり広告」を問題視しており、規制を強化し続けています。

2016年12月には、特に悪質な事業者に対して、SUUMOやat homeなど主要5社の物件情報サイトに1カ月以上すべての広告を掲載できなくする強い措置を講じることも定めました。

そしてついに、公取協がサイト運営者に対し、悪質な不動産業者42社の物件掲載を停止するよう要請していることが、2017年11月22日に報じられました。

何度も繰り返されるおとり広告。なぜ不動産業界はこれほどおとり物件が蔓延しているのでしょうか。罰則を受ける危険を冒してまで自社へ来店させようとする裏にはどのような背景や課題が隠されているのでしょうか。

ほぼ全ての物件を共有する不動産業界。だから自社を通した契約にこだわる

賃貸物件であれ売買物件であれ、おとり広告を打つ目的は自社への来店、これに尽きます。

そして、自社への来店にそこまでこだわらざるを得ないのは、不動産取引の仕組み上、同じ物件をどの不動産会社(仲介業者)を通しても契約できるためです。

不動産会社は「Real Estate Information Network System」(REINS)という、不動産会社専用の物件データベースで全国のほぼすべての物件情報を共有しています。一部、REINSに掲載されない非公開物件もありますが、全体の割合から言えばごくわずかです。

買主(借主)にとっては、どの不動産屋に訪問しようが同じ物件情報を紹介してもらえ、売主(貸主)にとっては、多くの不動産屋が買主(借主)を見つけようと動いてくれるという、双方にとって極めて効率的な取引のシステムが出来上がっているのです。

つまり、おとり広告を打ち出している不動産業者は「隣の不動産屋も、同じだけ物件情報を持っている」ことを理解しています。どの不動産会社でもほぼ全ての物件を取引できるため、“物件はなんでもいいから”とにかく自社を通じて契約させたがります。

このような不動産取引構造があるからこそ、架空の物件などを無理やり作り出して消費者の関心を惹き、とにかく自社にお客様を誘導する動機が働きます。

来店したお客様に対しては、「すでにそのお部屋は申し込みが入りましたが、別の物件もたくさんございます」と伝え、お客様を自社経由で契約させるのです。

「不動産屋」=「物件紹介屋」という刷り込みにほくそ笑む悪質業者

より踏み込んで考えると、おとり広告が蔓延する背景には、「物件情報」に価値があると不動産業界が消費者に刷り込んでいるという背景があります。

例えば、SUUMOなどの民間企業が運営するサイトに掲載されている物件は、各不動産業者の判断でREINSに登録された物件の一部を転載(コピー)して、買主(借主)に直接インターネット上で閲覧できるようにしているに過ぎません。

SUUMOに掲載されている物件の中には、同じ物件に対して多くの不動産会社が連なっていることがよくあります。それは、元々REINSに登録された同一の物件情報をコピーしているに過ぎないからです。

別の視点から言えば、たとえSUUMOに掲載していない不動産会社であっても、「SUUMOに載っていたこの物件を買いたい(借りたい)」と依頼すれば、REINS上から物件情報を引っ張ってくることで、なんら問題なく取引できます。

つまり、物件情報を得たいだけならば、不動産屋に直接訪問して、REINSを元に物件紹介を受ければそれで事足ります。物件紹介はどの業者でもできるものであり、物件情報そのものに価値はないともいえるのです。

しかしながら、ホームページに物件情報ばかり載せている業者も多く、どうしても「不動産屋」=「物件紹介屋」という意識が根付いている現状があります。

この状況が、おとり物件を載せる悪質な企業に対して、つけ入る隙を与えているのです。

おとり物件を掲載する業者の立場で考えれば、「消費者は物件情報に価値を置いている。ならば、優良な物件を情報サイトに掲載したら飛びつくだろう」とほくそ笑んでいるのです。

仲介サービスそのものを競い合えば、おとり広告は自然に消滅する

不動産先進国の米国では、日本のREINSに似た不動産情報システム「Multiple Listing Service」(MLS)があります。

業者間のネットワークという意味では似ていますが、システム内に蓄積されているデータ量は日本と比べ物にならないほど整備されています。

なにより、MLSに登録せずに非公開物件を保有することも厳に禁じており、MLSの会員業者は全社共通の物件情報リストをもとに営業活動が行えます。透明性が高く、公平な取引がなされる環境にあるのです。

だからこそ、米国の消費者は物件情報量などではなく、営業担当者の資質を見抜いて売買を依頼するというマインドが醸成されています。どの物件を選ぶかよりも前に、どの不動産会社(さらにはどの営業担当者)を選ぶかを重視します。

かたや日本では、(どの業者でも簡単にできる)物件情報そのものに注目させるきらいがあります。

本来であれば仲介会社は、不動産のプロとして「本当にこの物件を買ってもいいのか」を検証するなど、仲介サービスそのものに力を入れるべきです。物件紹介や契約書作成などの「作業」だけに力をいれる場合、ノーチェックで大きな取引が進むことにもなりかねません。

物件紹介という最も安易な営業方法ではなく、仲介サービスそのものに磨きをかけ、業者ごとに切磋琢磨していくことが望ましいでしょう。

まだまだ不透明で怪しいといわれる日本の不動産業界。物件紹介屋としての不動産屋が役目を終えれば、自然とおとり物件を広告する業者は淘汰されるでしょう。さらにはそれが結果として、透明性が高く、安心安全な取引をも実現することに繋がります。

「おとり広告の見抜き方」などを周知する対症療法によって消費者に不便を強いる段階を終え、業界全体として不動産取引の意義を問い直し、健全な取引への自浄作用が働くことを期待します。

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加藤 豊さん
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