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清水 泰志さん

経営コンサルタント

岡電バス路線大幅廃止で問われる、地域の公共交通機関のありかたと未来

2018年3月2日

解決!アスクミー JIJICO

両備ホールディングスが31路線の廃止届を出した背景

2月8日岡山県を中心にバス事業を行う両備ホールディングスが、グループ2社の赤字31路線廃止を国土交通省中国運輸局に届け出ました。今回の動きの裏には、格安運賃を掲げる他社が、両備グループの黒字路線への参入を国交省が認めようとしていることへの抗議という意味合いがあり、また地域の公共交通維持へ議論の場を設けようとしない岡山市に対する不満の表明という意図もあります。

この報道内容だけを見ると、両備ホールディングスが既得権益を守ることを優先して、経営努力を怠っている企業だと感じる人もいるかもしれません。しかし、2012年に岡山県の井笠鉄道バスが、1ヵ月後に会社清算を行うという突然の発表をした際には、生活に必要な交通手段が失われる不安が広がる地域住民のことを考え、両備ホールディングスは緊急対応を行っています。

急遽設立した別会社によって、多くの路線を引き継ぎ、沿線住民の生活の足は確保するとともに、井笠鉄道バスの従業員の雇用も一部引き継ぐことで、地方の公共交通機関の担い手として、損得を越えて責務を果たした自負が両備ホールディングスにはあったはずです。

「儲かる路線」ばかりを重視すると地域の足を守る「公共性」が失われる危険性

このように地方の公共交通機関が衰退している状況は、岡山県だけに限った話ではなく、全国的に広がっています。経営破綻した乗合バス会社は20社以上あり、また赤字を理由に廃止された路線の総距離数は1万㎞を超えています。

地方の乗合バス事業が経営的に苦況に立っている背景には、マイカー利用によるバス離れに加え、少子高齢化による過疎化の進行があります。さらに、2002年から実施された規制緩和が、路線バスの廃止を加速させています。

それまで、バス事業は、「公共性」の観点から、赤字路線だからといってすぐに廃止することなく、黒字路線や長距離バス路線、貸切りバスなどの収益で穴埋めすることで、赤字路線を支えるという収益構造をとっていました。

しかし、規制緩和により新規参入してきた事業者は、当然利益を見込めるドル箱路線に集中し、運賃の低価格競争を招く結果となりました。その結果、体力が弱っていた既存のバス会社は、「公共性」を捨て赤字路線の整理に出ているという状況です。

長年地域に貢献した路線バスが消え、一方で新規参入の貸切りバス業者が次々と認可されていく状況が、岡山県に限らず日本の多くの地域で起きています。地域の足を守るという「公共性」か、これ以上赤字は続けられないという「経営の効率化」か、規制緩和がもたらしたバス事業に突き付けられている課題が、岡山県の両備ホールディングスの今回の一件が象徴しています。

公共交通機関における「公共」とは何かをあらためて考察する

町中にあるスーパーマーケットやドラッグストアなどは、生活必需品を提供してくれるという意味で、私たちの暮らしの中に不可欠な存在です。

しかし、経営が行き詰まり店を畳むことになった場合、地域住民から「残念だ」と言われることはあっても、「無責任だ」とか「明日からの生活をどうしてくれるのか」といった非難めいた言葉を投げ掛けられることは少ないでしょう。こうした違いが生まれる理由は、交通機関の頭に「公共」という言葉が付いているからです。

Public Carrier(パブリック・キャリア)とCommon Carrier(コモン・キャリア)

では「公共」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。公共交通機関を文字通り英語に置き換えれば、Public Carrier(パブリック・キャリア)になりますが、実際に英語ではCommon Carrier(コモン・キャリア)と言います。Commonにも「公の」という意味は含まれますが、Publicに比べると「一般的な」あるいは「共有の」というニュアンスが強いという特徴があります。

交通機関には、コモン・キャリア以外に、私的なPrivate Carrier(プライベート・キャリア)があるので、コモン・キャリアは不特定多数の人に同一の対価で運輸サービスを提供する事業者や手段を指し、プライベート・キャリアはもっぱら自分のために輸送を行う手段を指すという違いがあることになります。

この「不特定多数の人の利用可能性」という点に着目すると、交通機関だけに特有なものではなく、昔から電話や浴場があり、最近では無線LANなどもあります。

ただし、これらのサービスは「公衆電話」「公衆浴場」「公衆無線LAN」と呼ばれていて、公共電話や公共浴場という言葉は一般的ではありません。その意味では、交通機関だけが特殊な理由はなく、本来は「公衆交通機関」と言うべきです。

「公共=損得を越えて社会的に有意義な役割を果たすべき」なのか?

日本社会の中で、「公衆」は個人の集合体と捉えることが多いので、「私」と同一ではないけれど、相容れない反対概念とは考えられていません。一方、「公共の利益=公益」と「私益」は相反するものと捉えられることが多いように、「公共」は「私」とは対置されるものであり、公衆交通機関ではなく公共交通機関と呼ぶことで、損得を越えて社会的に有意義な役割を果たすべきだと受け取る人が多くなっています。

そこには、経済学における「私的財」と「公共財」の考え方が無意識に反映されている可能性があります。道路、公園、消防、警察は一般的に公共財とされています。公共財とされるためには、2つの条件を満たしている必要があります。

一つ目は「排除不可能性」(特定の消費者をその財の消費から排除することが不可能であること)で、二つ目は「消費の集団性」(ある財が同時に多数の人々により等量消費され、消費者間で財の消費をめぐって競争の余地がないこと)になります。

交通機関が「公共性」を強く求められている理由は昔からの流れだった

しかし、輸送業者が提供する移動手段は、上記の公共財の2つの性格を共に満たしていないので、本質的に交通機関は公衆のために供されているとしても「私的財」なのです。

それにも関わらず、交通機関に公共性が強く求められていることには理由があります。江戸時代までは、人々の移動手段の主流は徒歩でした。

歩いて移動するという方法は、「もっぱら自分のために供される」という点で、最も私的な性格を持っています。そこに、明治時代に入り鉄道という不特定多数の人が利用可能な交通機関が出現したために、運送事業者が独占的な立場を濫用して利用者に不利益を与えることがないように、営利を目的として行う輸送事業に免許制度を導入し、権利を有した事業者に差別なく均一のサービスを提供する義務を課す必要が出ました。

つまり、輸送サービス市場において独占的な企業が存在する場合、不当な利得行為を規制することが、公共の利益のために必要だったのです。

現代では輸送業者に求められる「公共性」は小さくなり「公衆性」の性質が強くなっている

しかし、規制緩和により市場の独占が失われ、同一の輸送手段や同一のエリアに複数の事業者が参入してくるようになると、競争原理が働くために、法で規制するまでもなく特定の企業だけが不当利得を得られる可能性は限りなくゼロになります。

その結果、権利の対価として特定の企業だけが輸送義務を負う必要性が薄れることで、輸送事業者に求められる「公共性」は極めて小さいものになり、公衆交通としての性格が強くなる変化が起きてきます。

地方を中心に公共交通が衰退した理由を整理する

地方を中心に公共交通の衰退について、既に多くの識者が分析していることなので、一般論として何が言えるか整理しておきます。

① モータリゼーションの進行

自家用車の普及が進み、人々が私的交通機関である自家用車を利用する頻度が高まることに反比例して、公共交通の利用が減少した。

② 都市構造の郊外化

モータリゼーションの進行により、ロードサイドビジネスが興隆したことで、街の中心部が空洞化し、住宅やその他の施設が無秩序に拡散していく郊外化が進んだ。(スプロール現象) その結果、従来の鉄道やバスなどの公共交通が新しい都市構造にマッチしなくなり、ますます自家用車の利用が進むことになった。

③ 潜在的利用者の減少

少子化に伴い通学生の減少が起こり、また工場の海外移転などで地元産業が衰退し雇用が減少することで、潜在的利用者数そのものが減少した。

④ 政策の失敗

●自家用車の増加に伴い発生する道路渋滞の緩和のために街の郊外にバイパス道路を整備し、それに伴い市街地中心にあった役所や病院などの公的施設を広大な駐車場を完備した郊外へ移転することで、交通状況の改善と公共工事による地域経済のカンフル剤効果を狙ったが、都市構造の郊外化を行政側が後押しする結果になった。

● 収支が合わない路線を多数抱えているために生じた輸送事業者の欠損を、国や地方自治体が補助金によって事実上補填する政策をとり続けたことで、現状に甘んじ経営改善努力を怠る事業者の姿勢を生み出した。

このような現状を踏まえて、今後公共交通機関の将来像をどう考えればよいでしょうか。

公共交通機関の再生のために何をすべきか?4つのポイント

① 都市構造の再構築

郊外化により街が広範囲に拡散し、しかも沿線の潜在的利用者が減少している状況のまま、公共交通の再生を行うことは極めてハードルが高いでしょう。

経済合理性を追求しながら公共交通を維持するためには、街を職住近接・職住混合型の昔ながらのコンパクトなコミュニティに作り直す必要があります。ただし、この取り組みは時間と相応の資金がかかるうえに、人々の現実的な移動範囲は一つの街で完結することは少ないので、市区町村レベルではなく道府県レベルで行うべきです。

② 最適な交通ミックス・デザイン

地域毎の特性が異なるので、利用者の便益と効率性を高次元でバランスするためには、個々の地域でどのような交通手段を組み合わせたら良いかトータルでデザインすることが重要です。

この取り組みは、個別の事業者がカバーできる範囲を超えているので、地方自治体が中心になって行う必要があります。コンパクトシティづくりの先行事例となっている富山市のLRT(ライトレールトランジット)を中心とした公共交通の再生は、富山市が中心になって進めています。

③ 交通手段の柔軟性を高める

これまで公共交通と言うと、鉄道、大型路線バス、路面電車、モノレールなどの大型で、かつ定時定路型の交通機関が前提となっている交通手段がメインのため、導入に多くの時間と資金が必要でした。

その反面、一度出来上がってしまうと、都市環境が変化した際に容易にスクラップ&ビルドできないというデメリットがありました。

しかし、これからの公共交通は、伝統的な輸送事業者に限定するのではなく、乗合タクシーの導入、自家用車の活用、郵便や宅配便のトラックの活用などについても運賃の収取を認めるような法律整備を行い、自助努力によって解決する方法を後押しすることにも力を入れるべきでしょう。

④ 自動車技術の発展

現在、地方で公共交通が行き渡っていないエリアでは、自家用車無しでは生活が難しいが、高齢者の運転に危険が伴うことが問題になっています。

採算性の問題から路線が廃止されると、自家用車も使えない住民の生活の足をどうするのかという問題が必ず提起されます。

この問題については、現在開発が急ピッチで進んでいる自動運転技術が実用化されると、自動車の活用可能性が広がり、高齢者の移動手段の問題は別な形で解決される可能性があります。

行政と民間企業が組んで実現するこれからの公共交通機関

ロンドンやパリでは、日本より先に都市再生に絡めて公共交通の再構築を行った実績があります。その進め方は、民間任せではなく行政が積極的に介入する方法をとっています。

ただし、行政は、グランドデザインを描くこと、および個別の利害を調整して全体最適を実現することに注力すべきでしょう。しかしながら、地方自治体にこうした構想を描き実行計画に落とし込んで推進していくことができる人材は、ほとんどいないのが現状でしょうから、外部人材の活用を含めて行政のケイパビリティを高めて行くことが最初の課題になります。

次に、公共交通の運営を誰が担うべきかという課題についてです。最初から採算を度外視して、基本的に税金で運営していく前提の公共交通であれば話は別ですが、そうなると改善努力が失われて事なかれ主義が横行し、最終的には民営化に移行することでカンフル剤を打つことになる可能性が高くなります。

過去にも国鉄の民営化が行われ、最近では来る4月に大阪の市営地下鉄が民営化されますが、根底には巨大な累積赤字の存在があります。したがって、公共交通(公衆交通)の個別の輸送手段の運営は、あくまでも採算性を追求する民間企業が経営をしていくスタイルが望ましいと考えます。それが、結果的に住民のためにも繋がることが多いはずです。

最後に、これからの公共交通機関を考えるときに最も重要なことは、これまで公共交通機関と言われてきた電車やバスなどの既存形態を守り抜くことではなく、住民の目線に立って、人々の移動手段をなるべく低コストで効率良く再構築し維持することであることを強調しておきます。

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