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清水 泰志さん

経営コンサルタント

韓国への輸出規制強化に至る問題の本質は?日本に及ぼす影響とは?

2019年7月20日

韓国への輸出管理手続き変更に関わるここまでの流れの整理

7月に入ってから「日韓貿易戦争」「日本の対韓国輸出規制」「日本の韓国への経済制裁」という言葉がメディアの中で飛び交っていますが、先ずは日本政府の動きについて、事実関係を整理しておきます。

7月1日
日本政府は、軍事転用が容易とされる「リスト規制品」の韓国への輸出管理体制を見直し、半導体製造に必要な、高純度フッ化水素(半導体の洗浄に使用)、フッ化ポリイミド(スマホ画面に使用)、レジスト(半導体基板に塗布する感光剤)の三品目について、これまでの包括的審査・許可方式から、個別審査・許可方式に7月4日から切り替えることを発表する。

リスト規制品以外の先端材料の輸出についても、輸出許可の申請が免除されている外為法の優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外することを同時に発表する。

7月12日
1日に発表した輸出管理手続きの変更についての事務的説明会を、韓国側の要請により、経済産業省において開催した。出席者は課長級の担当者2名ずつ。

7月13日
外務省幹部の話として、7月19日を期限に日本から韓国へ要求している強制徴用賠償判決に係る仲裁委員会の設置に応じない場合、対抗措置をとるだろうと読売新聞が伝えた。

ニュース等では様々な情報が入り乱れていますが、現在ファクトベースで確認できる出来事はこの3つだけです。

輸出管理手続き変更が韓国に与える影響

包括輸出許可方式では、品目毎に三年間有効な許可を与えていましたが、個別方式に変わると、出荷ごとに審査許可を行うことになり、審査期間として標準的に90日が必要になります。当然、使途が不明瞭な輸出については輸出が認められない場合も出てくるでしょう。現在、サムスンなどの半導体メーカーの標準的な在庫髙が1ヵ月程度という観測が正しいとするなら、7月4日以降の輸出を即日行うことが出来ないために、必須材料が不足して生産がストップする可能性があります。

ちなみに「リスト規制品」とは、「輸出令・別表1」の1から15項、または提供する技術が「外為令・別表」の1から15項の品目に該当し、かつ「貨物等省令」に該当する仕様を有する場合に、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。具体的には、原子力、生物兵器、化学兵器、推進装置等々が指定されています。

次に、ホワイト国から除外されると、個別の出荷ごとに国の輸出許可の取得が必要になります。日本政府は、1日から24日までパブリックコメントを実施したうえで、8月中に政令改正で対応する予定としています。

ホワイト国とは、大量破壊兵器等に関する条約に加盟し、輸出管理レジームに全て参加し、キャッチオール制度を導入している国を指し、現在27ヶ国を指定しています。

ちなみに「キャッチオール制度」とは、リスト規制品以外のものを取り扱う場合であっても、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵もしくは通常兵器の開発、製造または使用に用いられるおそれがあることを輸出者が知った場合、または経済産業大臣から、許可申請をすべき旨の通知(インフォーム通知)を受けた場合には、輸出又は提供に当たって経済産業大臣の許可が必要となる制度です。

キャッチオール規制の対象品目は、建前上リスト規制に該当しない全品目になるため、ホワイト国から除外されると、輸出の手続きの煩雑化と輸出までのリードタイムの長期化がどこまで拡大するか予測が難しいと言えます。また、リスト規制同様に、審査の結果、輸出が認められない場合も出てきます。

ただし、実際に発動が確定しているのは、リスト規制にかかる三品目の包括輸出許可から個別輸出許可への変更だけです。切り替わりの一時期は、審査にかかる期間が長期化する分、輸出量が減少するため、韓国の半導体メーカーに必要な材料不足する可能性がありますが、軍事転用などの不正利用がなければ、その後個別の輸出は認められるのですから、韓国が「輸出規制」だとか「経済制裁」とか言って大騒ぎしている理由が分かりません。

強制徴用賠償判決に係る仲裁委員会の設置に韓国側が応じない場合、対抗措置をとると報じられている件については、安全保障を理由として韓国への輸出管理手続きを変更する話とは別の話です。この部分の線引きが曖昧な議論をしていることが多いために、何がポイントなのか分かりづらくなっています。この件における対抗措置とは、先ずは国際司法裁判所(ICJ)への提訴になる可能性が高く、経済分野における具体的な措置について日本政府から公式なコメントは出されていません。

たしかに3月13日に麻生財務大臣が、衆院財務金融委員会で、「関税に限らず、送金の停止、ビザの発給停止とかいろんな報復措置があろうかと思う」と発言していますが、あくまでも「企業に実害が生じた場合」にトリガーを引くという条件付きの話なので、今回の輸出管理手続きの変更とは切り分けて考える必要があります。

なぜ韓国への輸出管理手続きを強化するのか?

西村康稔官房副長官は、7月1日の記者会見で、韓国に対して三品目のリスト規制を行う理由を、「安全保障を目的とした輸出管理制度の適切な運営に必要な見直しだ」と語りました。また、西村氏は「韓国との信頼関係のもとで輸出管理に取り組むことが困難になっている」と指摘。「韓国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、より厳格な制度の運用を行うこととした」と説明しています。

それにも関わらず、メディアは「半導体材料を“事実上の禁輸”」「対韓輸出規制を発動」と報道しています。同時に、「自由貿易を掲げてきた日本へ各国から批判が集まる懸念もある」「各国に恣意的なルール変更ともとられかねない」といった指摘もしています。この反応の仕方は、韓国サイドのそれと全く同じなのですが、意見を表明する以前に、事実を正確に伝える義務をマスコミは果たしていません。

今回の措置に対する日本政府の考え方は、世耕経済産業大臣が、Twitterを通して発信した、経緯説明でも一貫しています。

経緯1.
従来から韓国側の輸出管理(キャッチオール規制)に不十分な点があり、不適切事案も複数発生していたが、日韓の意見交換を通して韓国が制度の改善に取り組み制度を適切に運用していくとの信頼があったが、近年は日本からの申し入れにもかかわらず、十分な意見交換の機会がなくなっていた。

経緯2.
また近時、今回輸出許可を求めることにした製品分野で韓国に関連する輸出管理を巡り不適切な事案が発生している。

経緯3.
さらに今年に入ってこれまで両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上で、旧朝鮮半島出身労働者問題については、G20までに満足する解決策が示されず、関係省庁で相談した結果、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない。

経緯4.
輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているものであり、経緯①から③を勘案した結果、韓国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていると判断し、厳格な制度の運用を行い、万全を期すことにした。

世耕大臣の経緯3を見て、「やっぱり徴用工賠償判決への対抗措置ではないか」と考えるのは浅慮です。対抗措置は具体的に損失が発生した後、その損失の大きさに応じて行うべきもので、現段階で対抗措置はとりようがありません。ただし、すでに「信頼関係が著しく損なわれた」ことは間違いなく。その結果、経緯4の「輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているものであり、経緯1から3を勘案した結果、韓国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていると判断し、厳格な制度の運用を行い、万全を期すことにした」に繋がっているのです。

安倍首相も、参院選公示前日(7月3日)に日本記者クラブで行われた党首討論会で「国際的約束である請求権協定・慰安婦合意が守られてない。約束を守らない国に優遇しないのは当然の判断である」と優遇措置を外したのは韓国が日韓条約や日韓「慰安婦合意」を守らないことにあると自らの口で語っていますが、意図するところは信頼関係が損なわれたために優遇措置を外したということです。これをもって、報復措置とか対抗措置とか言うレベルのものではありません。

韓国が起こした「不適切な事案」とはなにか?

韓国政府は、「不適切な事案を具体的に明らかにしろ」という要求をしていますが、日本政府は「安全保障上の問題があるため、個別の事案について回答しない」というスタンスのため、憶測が飛び交う状況になっています。

ただし、部分的なリークは出ています。7月4日萩生田光一自民党幹事長代行が「(過去輸出した分の)行き先が分からないような事案が見つかっているわけだからこうしたことに対して措置を取るのは当然だと思う」とテレビ番組で発言し、さらに7月6日小野寺五典元防衛相が「今までウラン濃縮素材(フッ化水素)について韓国企業が“100欲しい”と言ったら100渡していた。しかし工業製品に使うのは70ぐらいで残りを何に使うか韓国は返答しなかったので必要な量を渡すために規制した」という発言をしています。

さらに、7月10日韓国の国会議員が入手した情報によって、韓国国内で多数のWMD(大量破壊兵器)関連不正輸出事件が摘発されていた実態が明るみに出ました。

2015年から2019年3月の間に韓国国内で摘発された事件・計156件の内訳

NSG (核兵器製造・開発・使用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制) → 29件
AG (生化学武器製造・開発・使用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制) → 70件
MTCR (ミサイル製造・開発・使用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制) → 2件
CWC(化学兵器禁止条約)→1件
WA (通常兵器製造・開発・使用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制) →53件

ただし一方で、7月12日に開催された説明会の内容について産経新聞は以下の報道をしています。

日本は「不適切な事案」については「第三国への横流しを意味するものではない」と説明した。韓国産業通商資源省は会合後、「北朝鮮をはじめとした第三国への戦略物資の輸出を意味するものではない」と説明されたと明らかにした。

その他、叩けば埃が出る可能性が韓国にはあります。噂レベルの話ですが、あえて列挙します。

・現在朝鮮国連軍が行っている、北朝鮮の瀬取り監視活動に韓国だけ参加していないどころか、むしろ瀬取りを支援している疑いがある。
・2018年文在寅大統領が北朝鮮訪問をした際に、大統領専用機と予備機の2機の他、20トン積み軍用輸送機が2機平壌に飛んだが、ドルか金を大量に運んだという疑惑がある。
・2018年開城工業団地に80億ウォンをかけて建てた南北共同連絡事務所の追加修繕費として建設費以上の99億ウォンを使ったことになっているが、使途が不明である。
・平昌五輪に、北朝鮮の三池淵楽団150名は万景峰号で来たが、帰りに相当量の支援物資を積み込んだ疑いがある。

第三国への横流しではない不適切な事案とは一体なんなのかが、今後の焦点になりそうですが、第三国への不正輸出についても、現時点での情報をもとに考えると完全にシロとは言い切れず、追及されてしかるべき問題です。

輸出管理手続きの変更にともなう日本への影響は?

何度も言いますが、今回の措置によりリスト規制品3つを「禁輸」するわけではありません。ただし、輸出に時間がかかるようになるので、素材メーカーの期間売上が一時期減少するとか、韓国製の半導体が品薄になって半導体の値上がりを招くとか、一般的に想像できる影響は出る可能性があるでしょう。

韓国側は、自ら種をまいた徴用工賠償判決や慰安婦問題などに対する「不当な報復措置だ」というスタンスなので、国内で日本製品の不買運動が起きています。対象になりそうな日本製品は、ユニクロ、トヨタ、ホンダ、ソニー、アサヒビール、マイルドセブンなど広範囲になりそうです。

不買運動を主導しているのは、中小企業及び自営業者の27団体からなる韓国中小商人自営業者総連合会。全国で少なくとも約230の個人商店やスーパーなどが、日本製品の販売中止を行うので、売上は10%ほど減少する可能性があります。

しかし、過去25年間で4回の日本製品の不買運動が韓国内で起きましたが、いずれも竜頭蛇尾に終わっています。日本製品が韓国人の生活の中に深く入り込み過ぎていて、完全に日本製品を排除することが現実的ではないからです。そもそも、どうせ不買運動をするなら、本丸である高純度フッ化水素、フッ化ポリイミド、レジストを対象にすればよいのですが、この3品目は欲しいから、日本の服を買わないとかビールを飲まないという論理が理解できません。

昨年の韓国の貿易赤字を輸入先別にみると、日本が240億8000万ドルで最も大きく、サウジアラビア(223億8000万ドル)、カタール(157億7000万ドル)、クウェート(115億4000万ドル)などの順になっています。韓国が日本から購入しているモノが圧倒的に多いのだから、日本への対抗措置として高率関税を課したりすれば、困るのは日本ではなく韓国の方になります。

それは韓国側も分かっていることです。7月10日韓国経済研究院は、日本の措置で半導体素材が30%不足した場合、韓国のGDPは2.2ポイント下がる一方で、日本のGDPは0.04ポイントの下げ幅に留まるという試算を発表しています。

日韓関係の今後はどうなるか?

7月1日に日本政府が発表した輸出管理手続きの変更については、韓国側にやましいところがなければ、以前より手続きに手間と時間がかかるが、必要な製品は手に入るのだから、国をあげて大騒ぎする必要はないのですが、反日感情に投下する燃料として煽り立てています。

今後問題が大きくなるタイミングは、三菱重工業や日本製鉄の差し押さえられた資産が、実際に資金化されたときです。この場合、日本政府は対抗措置を行うことを表明しているため、今回の輸出手続きの問題と違って、韓国側だけが一方的に経済報復だと決め付けている話ではなくなるからです。

しかし、韓国政府側は三権分立という詭弁を盾に、問題解決に動く気がありません。日本政府が日韓請求権協定に基づき、仲裁委員を任命する第三国の選定を韓国に求めている件について、7月16日、韓国大統領府高官が仲裁委員会設置を受け入れない立場を明らかにしたことが報じられたので、韓国の大法院が差押え資産を現金化する具体的な手続きに入るのは時間の問題です。

また、文在寅韓国大統領は、7月15日、日本の輸出管理手続きの変更に対して「制裁の枠のなかで南北関係の発展と平和に総力を挙げる韓国政府への重大な挑戦だ」と述べ、「日本経済により大きな被害が及ぶ」と警告を口にしました。

文在寅大統領にとって最も重要なことは、南北朝鮮の統一ですが、その原動力として反日を利用している以上、日本との外交的や通商的な問題を解決するために融和的態度に改めることは考えられないでしょう。さらに言えば、もともと財閥の存在に否定的なので、韓国の国内経済の建て直しにも真剣に取り組む気がなさそうです。

韓国統計庁によると、今年6月の失業者は113万7千人で、1999年6月(148万9千人:韓国最大の経済危機時代)以降20年ぶりに最高を記録しました。失業率も前年対比0.3%ポイント上昇し4.0%とこれまた1999年6月(6.7%)以降最高を記録しています。実際、2019年の1月から2月にかけて日経新聞に掲載された韓国経済に関する記事の見出しをみれば、その不振は明らかです。

サムスン2本柱揺らぐ - 10月12月営業減益 半導体・スマホ不調
韓国半導体輸出9%減 - 12月、2年3ヵ月ぶり、中国向け大幅落ち込み
韓国、6年振り低成長 - 昨年2.7%、半導体失速

韓国国内は、すでに経済減速に直面して国民の不満が蓄積されているため、文在寅大統領は、ますます反日を煽ることで乗り切ることしか考えていないはずです。したがって、政治的および経済的にも日韓関係改善の糸口が見当たらず、今後ますます対立の構図が強まる可能性が高いと思われます。

最終的に、文在寅大統領が北朝鮮ファーストで国民を蔑ろにしていると韓国人が気づき始め、前大統領の朴槿恵氏のように弾劾されて、任期満了前に文在寅大統領が辞任しない限り、日韓の早期の関係改善は難しいのですが、弾劾裁判を行う憲法裁判所の裁判官は、すでに文在寅大統領のシンパにほぼ入れ替わっているので、弾劾もありえないでしょう。

政治と経済を分離することは可能なのか?

韓国政府は、輸出管理上の優遇措置を撤廃した日本政府の措置について、7月23日から開催されるWTO(世界貿易機関)の一般理事会で、「問題点と不当性を積極的に説明する」ことが報じられています。韓国が主張したい論点は、「元徴用工訴訟という政治問題に対して、経済的報復を行うのはWTOが定める自由貿易ルールに反する」ということです。

今回の件に限らず、「政治的な問題に経済を介入させるな」とか「政治と経済を分けて2トラックで進めなければならない」とか「政経分離の原則」のようなフレーズをよく見聞きします。理念としては正しいとしても、実質的にそんなことが可能なのでしょうか。

今年4月に、韓国が福島など8つの県で獲れた水産物の輸入を禁止している問題で、WTOの最終審に当たる上級委員会が、韓国の禁輸措置を事実上妥当とする判断を下し、日本はこの件で逆転敗訴しました。

1審では韓国国内で流通している水産物と同等の安全性が保たれているという日本の証明と主張が是認されていたため、日本はよもや上級委員会で1審の裁決が取り消されるとは思っていなかったようですが、結果は、韓国の禁輸措置を不当とした1審判決を取り消しながら、韓国の禁輸措置がWTOの規則に適合しているとは認めないという、何とも曖昧な裁定を受けました。

韓国政府は「国民の健康」を建前に福島県など8県からの水産物を禁輸にしているのですが、一方で、禁輸措置をしている県産の水産物を口にするリスクがあるにも関わらず、2018年に韓国から日本へ750万の人々が訪れていることは問題視していません。矛盾しています。

下衆の勘ぐりかもしれませんが、何においても日本には負けたくない韓国は、水面下で相当ロビー活動をしたのではないでしょうか。そこには政治的な意図があったはずです。この成功体験をもとに、政治的な意図を持った主張に、WTOを使ってお墨付きを得ることが可能だと、韓国政府が考えていても不思議ではありません。WTO自体が、政治的な争いをロンダリングしている可能性すらあるというのは、なんとも皮肉な話です。

1930年代の不況後、世界経済のブロック化が進み各国が保護主義的貿易政策を設けたことが、第二次世界大戦の一因となったという反省から、1948年ガット(関税及び貿易に関する一般協定)体制が発足し、その後1986年に開始されたウルグアイ・ラウンド交渉において、自由貿易を世界的に推し進める基盤をもつ国際機関の必要性が強く認識され、WTOの発足に至りました。

ただし、WTOが設立された時代には、あくまでも「国」単位で企業活動や経済活動が行われるという前提がありました。その場合、「政治は経済を司ることができる」という前提も同時に存在していました。だからこそ、「政治の問題は真正面から政治の問題として考えるべきで、使い勝手のよい経済を手段に使うのは姑息だ」という考え方が成り立ったのです。

しかしその後、自由貿易の広がりとともに、経済のグローバリゼーションが進行したために、経済活動は一国に留まることなく多国籍化していきました。その象徴として、EUの設立と単一通貨ユーロの発足があげられます。政治的な違いよりも、経済的な活動の重要性が高いと考える価値観がなければEUとユーロは存在しません。

ところが2009年、世界金融危機の中で起きたギリシアの財政危機を発端として、ユーロの信用が一気に低下する「ユーロ危機」が起きました。すでに言い尽くされたことですが、この混乱の原因は、EU加盟国の財政政策の不一致を放置したまま、ユーロという単一通貨にまとめてしまった設計不良によるものです。

ユーロ危機が指し示すことは、「国家(政治)はもはや経済や市場を司ることができない」という、大きなパラダイムシフトが起きたことです。その結果、現在はEUに限らず、経済の問題は、むしろ国家が起こしている状況に変わっているのです。

したがって、今回の日韓の貿易に関わる懸案に、政治と経済のことは切り分けて解決していこうという美しくはあるけれど時代遅れな理念だけで対応していくことは、日韓ともに難しい可能性が高いと思われます。

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